時間にルーズな人は、昔も今もなかなか信用されないものです。私自身、約束の時間に遅れそうなときの焦燥感といったら、動悸(どうき)が激しくなり健康上はなはだよろしくありません。
江戸しぐさの師である芝三光先生に、初めて連絡をとった時のことです。指定された時間ジャストに電話を入れたところ、呼び出し音が鳴るか鳴らないかのうちに出られました。電話の前で待っておられたのでしょう。先生の第一声は「これが江戸しぐさです!」でした。
芝先生によると、初対面の相手で、約束の時間からのズレ幅がプラスマイナス5分までの人は「Aランク」の誠実さを持っている人、と判断するのだそうです。10〜15分はBランク、それ以上だとCランクの人物と指定されてしまい、名誉を回復するのは大変なことでした。
突然断りもなく押しかけて相手の時間を奪う行為は「時泥棒」と言われました。お金は借りても後で返せますが、時間は返すことができません。故に「弁済不能の十両の罪」とも言われたそうです。
江戸商人たちは、他家を訪問するとき、あらかじめ手紙か使いを出して相手の都合を確認しました。たとえ娘の嫁入り先でも、近くまで来たからと突然寄るようなことはしませんでした。
現代なら、電話をかけた時、親しい友達であっても「今いいですか?」と、一言聞く人は、江戸しぐさのセンスがある人といえるでしょう。