江戸は「生き馬の目を抜く」と言われるくらい、競争が激しい町でした。
商人は、お客と互角であるという誇りを持ちながら、お客との出会いは「一期一会」と真剣に接し、また、十両の客より百文の客を大切に扱うよう心掛けました。
「いくつもの店の中から当店を選んでくださったのは有り難い(なかなかない)こと」と、その思いを言葉だけでなく、目つきにも込めました。ほほえみを含んだ「おあいそ目つき」で客を迎えたのです。身のこなしにも、いそいそとしたうれしさがにじみ出たことでしょう。
目当ての商品がなかったとき、「おあいにくさま」という事務的な切り口だけでは客はがっかりしてしまいます。「せっかくいらしてくださいましたのにあいすみません、すぐに取り寄せます」などの言葉とともに、すまなそうに目を伏せ、まばたきをして申し訳なさを表現しました。これを「おあいにく目つき」といいました。あたたかいそのしぐさに納得した客は、素直にあきらめ、「また来よう」と思うわけです。
このごろのお店では、そうしたやりとりが少なくなってしまいました。昔かたぎの魚屋さんが言っていました。「このお魚はどうして食べるのが一番おいしいの? なんて聞くお客がいなくなっちゃった。どんなふうにして食べてんのかねえ」。そしてある日、量販店進出のあおりを受けたその店は、閉店に追い込まれてしまったのです。