臨機応変、日常を再現
山田洋次監督(78)の最新作「おとうと」。姉・吟子(吉永小百合)と弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)の再会と別れから家族の絆(きずな)を描く。
主な舞台は、吟子の仕事場兼自宅の薬局だ。美術が設計しセットが作られ、装飾の高橋光(みつる)さん(40)は薬箱や机、冷蔵庫の張り紙など、日常がそこにあるかのように小道具を配した。俳優の指輪や靴など、装身具も準備する。台本に書かれた物は撮影の2カ月前から業者に発注し、イメージに合わなければ自ら探しに行った。登場人物の性格から、どんな物を置くのかも考えた。撮影の下見で監督に同行した時のこと。ある薬局の食卓で、クリスマス向けに赤と緑の2枚のクロスが重ねてあった。さりげない暮らし向きが漂う。「あぁいうの、いいよね」。監督のつぶやきもヒントにした。
撮影はストーリー順に進み、小道具もしだいに現場の雰囲気になじんできたという。山田監督は、カメラのフレームから外れた食器の位置ひとつをとっても、えんえんと考えたり、台本にはないことを急に要求したりする。晩秋のシーンを撮っていたある朝、「焼き芋屋ってある?」と監督に言われ、午後の撮影までに用意したことも。「臨機応変に対応できるフットワークをみんなが持っています。次はどうなるのかなぁ、と楽しんでやらなければ」。20年前の初仕事が「寅さん」シリーズだった。「山田さんは新人だった自分の意見にも耳を傾けてくれた。それがうれしくて、続けてこられたのだと思う」と高橋さん。
吟子は季節感を大切にする性格だと感じ、どうしても置きたかった物がある。「撮影の途中、どかされたりもしたんですけど、そこはもう、戦いで……」。薬局のレジ横には、「観客に何かを感じてもらえれば」という高橋さんの思いにこたえるように一輪挿しの花がひっそりと咲いていた。(甲田朋子)