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新しい才能に出会う醍醐味
日野之彦さんから電話があった。いつもの頼りなげな声で「VOCA賞とれました」という。彼は28歳。その若いアーティストが現代美術の登竜門ともいえる賞を獲得した。なにしろ出品するにも美術館の学芸員や美術ジャーナリストの推薦がいるハードルの高い賞だ。
私は1階で貸し画廊もやっているが、ここは、新しい才能に出会う機会を与えてくれる実に都合の良い空間だ。銀座6丁目に引っ越して10年、何人かとの出会いがあった。日野さんもその一人。
白いブリーフをはいた若い男がいる。口が半開きだったり、手や足の指を口にくわえていたり。肉体は油彩で丹念に描かれているのに、大きく見開かれた眼だけはうつろで現実の描写ではない。いかなる攻撃にも耐えられそうにない脆弱さ。「絵は言葉より多くを語る」という日野さんの描く人物=写真は「手を食べる」=は、一度見たら忘れられない。1階の画廊を借りての彼の個展は私をとりこにした。
すぐに企画展を組んだ。「僕の絵は個展で売れたことがないんです」という日野さん。それを聞いて「じゃあ、初めての客になるよ」と1点買ってくれたのが、なんと彫刻家の舟越桂さんだった。日野さんにとって忘れられない記憶になることだろう。
新しい才能、大きく育ってほしい。ブレークしそうな予感がする。そういう出会いがギャラリーをやる醍醐味のひとつ、などと独りごちていたら電話が鳴った。頼りなげな声が「文化庁の買い上げに決まりました」と!!
(ガレリア・グラフィカ)
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