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彼女の心に届いた言葉は
今年の初めのこと。用があって画廊を訪れた銀行の若い女性が赤い眼をして、しきりに涙をぬぐっている。「花粉症なの?」と聞くと、「下の画廊の展示を見て、泣けて」という。
1階では原高史さんの個展が行われていた。原さんはここ数年「サインズ・オブ・メモリー」という一連のプロジェクトをしている。2000年、新潟県の旧浦川原村が始まりだった。村人たちに、各々(おのおの)の思い出を語ってもらい、その中の記憶に残る言葉を住民と一緒に絵にして各戸の窓などに展示する。過疎化や高齢化の進む村の地域づくりから始まったプロジェクトだった。
初めは怪訝(けげん)に思っていた村人たちも、だんだん原さんに親近感をもつようになり、共同作業を楽しんだ。この個展にも新潟の豪雪をおして、おふたりが訪れてくれた。
これを基本に、同じプロジェクトを原さんはドイツのベルリンとミュンスターでも展開した。特に旧ユダヤ人孤児院だった建物では、半円形の窓に言葉を綴(つづ)ったピンクの板がはめこまれた。地区のユダヤ人住民が重い口を開いてくれたという。
東京の個展では、これらの体験からの無数の言葉とイメージを記録したノートをもとにした小さな絵が展示された。両手にかばんを持っている子、白いドレスを長くひいた女の子たちがいる。「女の子は強くなければいけません」「いろんな涙を知るの。冷たい雨もあれば暖かな雨もある」などの言葉が添えられている。
銀行につとめてまだ間のないあのお嬢さんは、どの言葉に自分の記憶を重ね合わせ、身につまされたのだろうか。
(ガレリア・グラフィカ)
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