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ピカソの版画との出会い
画商仲間と話していると、かつて自分の手を経て売った作品が、現在とても高くなっていて残念無念、という話題がよく出てくる。「以前3千万円で売ったピカソが、このあいだのニューヨークのオークションで1億5千万円で落札されたよ」とか。とはいうものの、画商はコレクターではない。高価な作品を長いあいだ手元に置くわけにはいかない。まして、何倍にもなるだろうという予測など、できるものではない。
長い画廊稼業の間には、私にも「あれが今あったら、倍以上はまちがいない」と、買っていただいたときのありがたさをすっかり忘れて、未練がましく思う作品がいくつかある。
中でもピカソの初期版画「サルタンバンク」シリーズからの「女の頭部、横顔」(1905年作)の初版は、忘れがたい。ピカソが終生の友人ラモン・レベントスに贈り、長い間、遺族の手元にあったものだった。この幻の版画に出合ったのは、バブルが破綻(はたん)した直後のロンドン。たった今制作を終えたばかりのようなみずみずしいインクといきいきとしたドライ・ポイントの線が描き出す横顔は、威厳と美しさを併せ持っていた。私はひと目で魅了された。
おそらく1点しか現存していないこの版画の出現で、従来の「初版」が、カタログ・レゾネの追加・改定巻では「第二版」と訂正された。そのページには、たまたま出版時に所有者であった私の画廊の名が記録された。
バブルの最中なら、私の手には入るはずもない名品だった。日本のある美術館に納入したあと、アメリカの美術館から購入の意志のある旨が伝えられ、やや未練心が芽生えた。
(ガレリア・グラフィカ)
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