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2007.3.22(木)更新  楽しみ学 ことはじめ
楽しみ学 ことはじめ
手元だけを見ていると、文様にズレがでる。「全体を見ながら彫って下さいね」と田部久美子さん(右)=東京都八王子市で(撮影・佐藤朗)
楽しみ学 ことはじめ
 古道具市で、目に入った鮮やかな着物柄の下絵を手に取ると、下から焦げ茶色の古びた紙が現れた。繊細な花のモチーフが一面に彫り抜かれた、着物の図案に用いる型紙だった。本来、型染めに使う道具であるが、そのまま飾ってもいい。「自分でも彫れたらいいなあ……」。そんな願いに応えてくれる型彫教室「野画工房」が東京・八王子にあるという。
伊勢型紙 型彫
紙に花咲く 文様の美
 たわわになるナンテンの実、波雲を縫って咲くボタン、菊ーー。三重県から取り寄せたという地紙(じがみ)に図案を重ね、彫刻刀で切り絵のように彫っていくと、刃先が紙に触れ、サクッ、サクッと音を立てる。まっさらな紙に文様が浮かび上がる。
 「机まで彫らなくていいのよ」。黙々と作業していると、教室を主宰する田部久美子さん(44)の声が飛び込んできた。手は汗ばみ、力を入れすぎたせいか、単純な線までぎこちない。
 同県鈴鹿市の白子、寺家両地区が発祥とされる伊勢型紙の歴史は、今から千年ほど前にさかのぼる。室町期には小さな丸穴で柄を描きだす「錐(きり)彫」などの技法を使った小紋が武士の裃(かみしも)に用いられ、次第に庶民の着物柄に採り入れられた。型紙を布に載せ、彫り抜いた部分に糊(のり)を置いて染め上げていく。地紙は水や糊を使う染色工程に耐えられるよう、数枚の美濃和紙を繊維の向きを変えて張り合わせている。接着用の柿渋が線香のような甘い香りを放つ。
 田部さんが型紙に出合ったのは16年前、福島県喜多方市に帰省した時だった。かつて型紙屋を営んでいた近隣の蔵から3万枚もの膨大な型紙が見つかり、整理を手伝ううちに、すっかりその美しさに魅せられた。自分でもやってみようと、現在でも型彫の技が伝承される三重県まで足を運んだ。
 当初は「よそ者」扱いで、思うように指導者が見つからない。2年近く派遣で編集の仕事をしながら職人の実演先を回り、その姿を見かねた地元の人が伝統工芸士の内田勲さん(62)を紹介してくれた。「一人前になるまでに最低でも6、7年。そんな世界に飛び込んでくる人は、今じゃほとんどいない」と言っていた内田さんも、根気よく通う田部さんの熱意にほだされ、直接指導するように。田部さんは、今では都内で教えるまでになった。
 体験した教室で、年に一度行われる内田さんの特別授業に運良く参加できた。「つまむように刀を持って」「筆で絵を描くように」というアドバイスで、それまで角張っていたナンテンの実が、まん丸になった。「趣味でやるなら、楽しんで彫るのが一番」と内田さん。
 不思議なことに、いったん彫り始めると、周りの音が聞こえなくなる。「普段の生活にはない、この緊張感が好き」と横に座っていた50代の主婦。手を休めると、ようやく日常の音が聞こえ出す。教室に通って4年余りの朝比奈文子さん(72)は、「型彫は私の『癒やし系』なの」と目を細めた。2カ月余りかかって彫った30センチ四方の自作を手に、私も思わずほおが緩んだ。
(清土奈々子)
悦楽  自分で彫った型紙で染色も可能だ。「草花文様の浴衣を着て、町中をぶらり……」なんて妄想をふくらませていると、細かい柄にもどんどん挑戦したくなる。

悦楽  親指と人さし指の間に間隔をあけ、刃先が自在に動くように彫刻刀を握るのがコツ。頭では理解できるのだが、体がついていかず、変に力んで肩が凝った。


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 「菊に唐草文様」が彫られた40数センチ幅の田部さんの作品
【用意するもの】
 下敷き、彫刻刀

 野画工房 田部さん主宰で、型彫や染色などを指導。
 ▼伊勢型紙型彫教室 花の図案や暑中見舞いなど、季節ごとのテーマで彫る。第1(土)午前10時、東京都八王子市南大沢2丁目の南大沢公民館(南大沢駅)。初心者クラス=第3(水)午後1時半、上級者クラス=第1(水)午後1時半、同市の南大沢文化会館。各回1000円(別途材料費)。問い合わせは090・4024・9685。
 ▼JEUGIAカルチャーセンター「柿渋和紙を彫る 型彫教室」 第2・4(月)の午前10時半、東京都武蔵村山市榎1丁目のダイヤモンドシティ・ミュー(立川駅からバス)。月額4200円。問い合わせは042・590・0355。

 紀尾井アートギャラリー 江戸の伊勢型紙美術館 東京都千代田区紀尾井町(永田町駅、TEL03・3265・4001)。江戸時代から昭和の伊勢型紙約5000枚を収蔵。常時200枚ほどを展示する。午前11時〜午後5時半。(月)(水)休み。700円。
 東京染ものがたり博物館 東京都新宿区西早稲田3丁目(高田馬場駅、TEL03・3987・0701)。江戸小紋の染めなどを行う染色業の老舗(しにせ)「富田染工芸」の工房に併設。オリジナルの型紙を展示する。第3(土)のみ、工房見学や染色体験(2000円、要予約)も。午前10時〜午後4時(正午〜1時を除く)。(土)(日)(祝)休み。


(2007年3月22日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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