太平山(たいへいざん)にはテレビ番組の収録で99年に登った。「日帰り登山で基本を学ぶ」というテーマで、北は秋田から南は福岡まで、13都市13山を選んだ。秋田からは迷わず太平山を選んだ。山頂に太平山三吉(みよし)神社の奥宮があり、昔から信仰登山が盛んで、秋田市のシンボルでもある。
番組には地元の中年女性3人に登場いただいた。カメラの前では標準語を話す3人が、休憩時間は秋田弁まる出しで楽しげに語り合っている。方言はぬくもりがあっていい。「カメラがまわっても秋田弁で」とお願いしたが、本番は標準語になってしまうので大笑いした。
秋田を知るために読んだ司馬遼太郎さんの「街道をゆく・秋田県散歩」に、菅江真澄が出てくる。秋田を愛した江戸時代の紀行家である。男鹿半島など県内のあちこちに足跡を残したが、太平山に登ったという話は出てこない。
どうしてかなと考えていたら、真澄さんが秋田藩の学者・那珂通博に誘われて太平山に登ったことを三吉神社発行の「太平山の歴史」で知った。山好きにはうれしい話である。
山頂への登路はいくつかあるが、ぼくたちは変化に富む野田から登った。真澄さんもたどった太平川源流の沢沿いの道で、5月だったからブナの新緑がまぶしく、清らかな水は踊るように流れていた。
やがて尾根にとりつく。急坂だ。歩幅を小さく、ゆっくり登る。息が荒くなると足を上げる気力がなえるので、呼吸が乱れないようゆっくり登る。女人堂跡を過ぎ、一頑張りすると剣岳からのびる尾根に立てる。
剣岳を越え、弟子還の岩場を過ぎると太平山のファイナルピーク、奥岳は目の前だ。頂の上に大きな空が広がっている。山腹は初夏だが、足下はまさに春らんまん。ヒメシャガを初めて見た。西に秋田市街、日本海、男鹿半島。北東に森吉山、南に鳥海山が見えた。360度の展望を楽しんで旭又(あさひまた)に下った。
ここまで書いて、台風の影響が心配になった。この時の取材が縁で知遇を得た三吉神社の田村泰教宮司に電話した。案の定、野田ルートは道が荒れておすすめ出来ないとのことだった。一般的なルートの旭又からは登り2時間40分、下り2時間で往復するのが無難だ。