千葉県に山はない、なんて失礼なことをいう人がいる。そんなことはない。高い山がないだけで、いい山はいくつもある。すぐ頭に浮かぶのは鋸山(のこぎりやま)、伊予ケ岳、富山(とみさん)、高宕山。いずれもぼく自身何回も登っている。
ガイドブックをみると、元清澄山(もときよすみやま)、三郡(みこおり)山、房州アルプス、嵯峨山、烏場(からすば)山など面白そうな山が並んでいる。小なりといえど、一山選ぶのに迷う。
その中から選んだのは烏場山。標高267メートルの低山だが、「花嫁街道」というキャッチフレーズと、コース上にマテバシイの純林やお弁当をひろげるのに最適のカヤ場がある。きついアップダウンもそれほどない。
烏場山のある南房総・和田町は「花とみどりと海の楽園」だ。房総の花き栽培の発祥の地であり、和田浦海水浴場は「日本の水浴場88選」に入っているほど海がきれいだ。和田浦は全国に四つしかない小型沿岸捕鯨基地でもある。
大自然に恵まれたうらやましい和田町は、都会の人たちとの交流の場を広げようと「ネーチャースクール」を開講している。中山夘一郎町長が新日本百名山の一覧表の中に烏場山をみつけ、スクールの行事に「岩崎元郎さんと歩く烏場山・花嫁街道」を組み込んでくれた。
1月22日、東京駅から外房線の特急に乗り、安房鴨川駅で各駅停車に乗り換えて和田浦駅で降りた。この日は体験交流施設「くすの木」に泊まり、翌朝役場に集合。車道を歩き、50分で花嫁街道入り口へ。その昔、山間の集落から海辺の集落へ嫁ぐ花嫁がこの道を歩いたという。
入り口からのひと登りをがんばって尾根上に出れば、その先は歩きやすい道が続く。いくつかある展望台からは、太平洋、緑の山並みを眺めたり、箱庭のように点在する山間の集落を眺めたりで、退屈することがない。
山頂まで和田浦駅から3時間20分、下山は花婿コースを下って駅まで2時間40分。ぼくたち一行は線路をはさんで駅の反対側にある役場に戻って解散した。
山一筋45年、山の頂上以外には見向きもせず、家と山頂を結ぶ線の登山を続けてきた。反省しきり。周辺にも視野を広げて線から面を楽しむような山旅をめざしたいと思うようになった。