「あっ、岩崎さん」。昨夏、日本百名山の一座、蔵王・熊野岳の頂上で、あるグループからあいさつを受けた。グループの一人がこの山で百名山を達成するので、お祝いにみんなで登ってきたのだという。山口県からのグループだった。ぼくは内心シメタと思った。
還暦記念に、ぼくなりの基準で新百名山を選び、一年間で登ってみようというチャレンジを思いついたのは一昨年のこと。47都道府県から必ず一山選ぶとしたのはグッドアイデアだったと思うが、山口県はどの山にするか決めあぐんでいた。グループのリーダー、古屋信夫さんは「親しみやすさでは東鳳翩山(ひがしほうべんさん)がお薦め。山頂からの眺めもなかなかです」。
山に登る理由の第一位は、女性の場合「可憐(かれん)な花との出合い」、男性では「山頂からの展望」だという。東鳳翩山という山名にもひかれて、昨年暮れ、山のチェックに山口市を訪れた。古屋さんのご案内で二ツ堂コースから登り、二十一世紀の森へと中国自然歩道をたどった。
秋の台風で登山道は風倒木がジャングルジムのように重なったという。それをこの山を愛する人たちが、あっという間に整備した。よく踏まれて歩きやすい道を気分よく登って734メートルの山頂に立つ。眼下の山口市街は箱庭のようだ。次々と人が登ってくる。山口県の新百名山は親しみやすさで東鳳翩山とすることに決めた。
3月半ば、東鳳翩山に還暦記念登山。前の晩は白狐が発見したと伝えられる湯田温泉に泊まる。翌朝は雨。マイクロバスで二ツ堂コースの登山口まで送ってもらう。準備体操をしてから出発。山道は整備され、雨が降っていてもあまり滑らない。安心してリードできる。ゆっくり登って1時間40分、山頂に立つ。雨は上がり、最高の展望が待っていてくれた。
下山は前回同様、中国自然歩道をたどり、マイクロバスに拾われる。湯田温泉に戻る途中、瑠璃光寺に立ち寄って五重塔を見学する。五重塔は国宝であり、室町時代に栄華を極めた大内文化の最高傑作である。市内には山口サビエル記念聖堂、常栄寺雪舟庭など見どころも多い。名所旧跡そして温泉と山歩きを組み合わせた「物見遊山」ほど、心身の健康に効果あるものはあるまい。