釈迦ケ岳は大峰山南部の雄峰で、ピラミッドのような美しい山容の山だ。
大峰山といえば狭義には、役(えん)の行者に深く関わっている山岳修験の根本道場として知られる山上ケ岳1719メートルを指すが、広義には紀伊半島のほぼ中央を南北約50キロに連なる山脈の総称として登山者には認識されている。
釈迦ケ岳を新百名山に選んだのは、大峰山の「奥駆け」を試みたことがきっかけだった。「奥駆け」は、大峰山脈全山縦走のこと。吉野山から熊野まで総延長180キロを8泊9日で駆け抜ける荒行だ。
ぼくは、行程をいくつかに分けて奥駆けをトレースすることにした。一昨年11月、熊野川岸辺、備崎から玉置山へと歩き、2回目は昨年5月、玉置山から笠捨山を越えて太古の辻へと歩き、前鬼小仲坊へと下った。前鬼小仲坊は、役の行者に従った5人の鬼のうち、前鬼の子孫が営んだ宿坊と修行の場といわれる。
帰り道、釈迦ケ岳のシルエットが紫色の空を鋭く切り取っていた。山容の美しさに前鬼という伝説の里が重なるこの山を、新日本百名山に選ぶことにした。
釈迦ケ岳をめざす日がやってきた。5月10日朝4時、小仲坊の布団の中で目を覚ます。4時30分、般若心経の唱和後、ホラ貝の音に先導されて出発した。
太古の辻まで急登の連続。しかし、ゆっくり歩幅小さく足を上げていけば、息を切らすことなく、体は自然に持ち上がってくれる。アケボノツツジがポッポッとピンク色を見せている。太古の辻に立って一息。熊野にむかい「南奥駆け」という案内が出ている。ふたがんばりして釈迦ケ岳に登りつく。頂上には地元のガイドが1人でかつぎ上げたという青銅の釈迦像が安置されていた。
釈迦ケ岳から歩きに歩いてこの日、弥山小屋泊、翌日、大普賢岳を越えて和佐又ヒュッテに下った。釈迦ケ岳だけなら小仲坊に前泊、ぼくたちと同じコースで山頂に立ち、西側旭口の方へ下山するのがお薦め。前鬼林道車止めゲートから小仲坊まで約1時間、小仲坊から山頂まで4時間余り、新登山口まで下り2時間強である。林道は崩れやすいので、事前に車両通行の可否を地元の下北山村役場に問い合わせておく必要があるだろう。