山登りの楽しみの一つに人との出会いがある。
3年前(02年)の8月、北アルプス屈指の難コース、西穂高岳(にしほたかだけ)から槍ケ岳(やりがたけ)へと縦走した。このとき、高知から来た「山と野原の会」という中高年の方の集まりと知り合った。ぼくは内心シメタと思った。竜馬脱藩の道の取材を依頼されていたからだ。予習に「街道をゆく」の「梼原(ゆすはら)街道」を読んでいた。が、土地の人に色々と聞くことができれば、非常に心強い。おずおずと用件を切り出すと、グループのリーダー、鈴木義夫さんが「喜んでご案内しましょう」と胸をたたいてくださった。翌年2月、梼原行きが実現した。槍ケ岳での出会いがあったればこそである。
前置きが長くなった。今回の稲叢山(いなむらやま)を薦めてくれたのが、この鈴木さんだ。高知県からは県のほぼ中央、JR土讃線高知駅の北西約26キロに位置している。
高知県での一番人気は三嶺(みうね)だという。しかし、新日本百名山では、この山の属する剣山地から剣山(つるざん)を徳島県の山に選んでいる。他県にまたがらない山として、鈴木さんの薦めてくれた稲叢山にすることにした。登山ガイドを見ると、「四国山地の真ん中にあってダム湖を見下ろす隠れた名峰」と紹介されている。わが目と足で確認すべく、「山と野原の会」の協力を得て、4月上旬に出かけた。高知の山のほとんどは、アプローチに公共交通を利用しにくい。マイカーがあって、日帰り登山が可能になる。稲叢山も例外ではない。
このときは、高知駅前で鈴木さんの車に拾われて約2時間、稲村トンネル登山口に到着。南西の稲叢山をめざした。ブナ林の中の歩きやすい道で、名山にふさわしい品格を感じさせる。4月下旬ともなるとアケボノツツジが開花して、山全体が華やかになるという。ぼくが訪れたときは、まだ堅いつぼみであった。
約1時間30分、登り着いた頂は4畳くらいの一枚岩で、気分のいい展望台であった。さすがに四国のど真ん中、周囲はすべて山また山、北西方向には石鎚山も見えるという。
天気もよく山頂でのんびり歓談のひとときを楽しんで稲村ダムサイトへ下山。1時間30分。再び車に拾われて、高知に戻った。