山名は山容に由来することが多い。丸いから丸山というのは代表例だ。烏帽子(えぼし)という山も多い。昔は公家らが、現在では神官がかぶっている独特な黒い帽子のこと。「烏帽子みたいな山だね」ということで山名にされたのだろう。烏帽子山、烏帽子岳、烏帽子ケ岳、烏帽子形山など手元の資料で数えただけでも、60山以上にもなる。
和歌山県から選んだ新日本百名山、烏帽子山は、関西百名山にも選ばれている。烏帽子に似た岩が山頂近くにあり、名前の由来になったとも。紀勢線新宮駅の西南西約9キロに位置。熊野那智大社、青岸渡寺を擁する那智山(なちさん)の主峰である。
数年前、熊野古道の一つである中辺路をたどって本宮大社に詣でたのをきっかけに、熊野の不思議な魅力にとりつかれて、度々通うようになった。2003年4月下旬、高野山から本宮大社へと小辺路を歩いた。このとき登ったのが烏帽子山であった。
前の晩、新宮ステーションホテルに泊まって、翌朝、車で出発点である大門坂バス停へとむかった。このバス停は、那智勝浦駅から熊野交通のバスを利用すれば20分だ。大門坂とは熊野古道の中でも人気の高いあの大門坂である。
バス停を背にして那智川におり、本谷を渡って東ノ谷に入る。本谷の上流に架かっているのが有名な那智の滝だ。那智川は本谷、東ノ谷、西ノ谷、新客谷の四つの谷があり、那智四十八滝を架けている。東ノ谷を少し登ると、陰陽の滝にぶつかる。流れを右に左に、渡ったり渡り返したりしながら上流にむかう。ぬれた石は靴のゴム底を滑らすので足運びにご用心。登りつめると林道に出、もうひとがんばりで山頂に立つ。バス停から3時間30分。木立に囲まれて展望はよくないが、雰囲気のいい頂上だ。
那智原始林の中の静かな道をたどり、本谷沿いの道を下る。青岸渡寺、那智大社のある台上に出た。本谷沿いのコースは現在、入山禁止になっているので、頂上からは新宮側に下ることになる。山道を2時間、林道歩き1時間で高田グリーンランド前に下山できる。
すばらしい自然と歴史に包まれたこの山は、数ある烏帽子山の中で屈指の名山といえるだろう。