北海道には、秀峰、鋭峰、秘峰が数多く、本州、四国、九州の山好きには垂涎(すいぜん)の大地だ。名峰の中から新日本百名山としてこの山を選んだのは、ぼく自身がすっかり気に入ってしまったからである。
2年前、雑誌の取材依頼を受けて、初めて恵山(えさん)の存在を知った。函館の近くと聞いて地図をひらいてみると、渡島半島の南東部の先端に見つけることができた。函館駅の東、約37キロの位置である。
編集担当の人が資料を送ってくれたが、あっさりしすぎていて具体的にイメージすることができない。ちょっと不安なので札幌在住の友人に電話を入れ、車付きで同行してもらえることになった。
函館空港でぼくを乗せた車は、海辺のアスファルト道路を快調に走る。前方に恵山が見えるはずなのだが、雲の中のようだ。ともかく行ってみるだけ行ってみようと賽ノ河原の駐車場まで上がってみたが、五里霧中。どこに恵山があるかも分からないので、今宵(こよい)の宿、ホテル恵風へ退却することにした。下るにつれて霧が晴れはじめ、恵風に到着する頃にはすっかり青空になった。ホテルの駐車場でUターンして、賽ノ河原の駐車場にとって返す。うってかわって、青空をバックにして恵山が目の前にどーんとそびえていた。火山性の山肌が荒々しい。標高618メートルの山とは思えない存在感がある。
恵山はコニーデ型、中央火口丘はトロイデ型の複式火山である。賽ノ河原は火口原で、花期には様々な高原植物で華やかにいろどられるという。火口原の中をゆっくりたどっていくと権現堂コースの登り口となる。火山礫(れき)の荒々しい急斜面の中に、緩やかなジグザグを切ってコースは拓(ひら)かれている。真下に海が見える。濃紺の海だ。気分爽快(そうかい)となる高度感を味わえる。ゆっくりゆっくり足を上げていき、頂上に登り着く。見通しがきけば、津軽海峡のむこうに下北半島の山々が見えるという。恐山・大尽山を見たいと思ったが、この日は、それと確認することはできなかった。
登り1時間30分、下り1時間10分で駐車場に戻った。翌日はホテルの下に湧(わ)いている水無海浜温泉へ遊びに行った。文字通りの海辺の温泉である。
恵山はハイキングレベルで楽しめる山なのに、本格的な雰囲気を醸し出している山であった。