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出品交渉の「美学」 いまいずこ
 今年の4月で私の美術館生活も満28年になる。これまでにたずさわった展覧会のなかで最も思い出深いのは、1986年に上野の国立西洋美術館で開催された「エル・グレコ展」だ。準備にはまる4年かかった。

 その間、共催者の某新聞社文化事業部のAさんとは出品交渉のため何度もいっしょに海外出張をしたが、その際いろいろ「作法」を教えてもらった。初対面の人にいきなり作品を貸してくれと言うのははしたない。まずお友だちになることだ。2度目に会ったら昼食にさそってみる。相手がメトロポリタン美術館の人間だったら、近くの創作フランス料理の店(名前は失念した。いまはない)が手頃だろう。昼食ならば2人で100ドル以下ですむ。食べながら計画をそっと打ち明けて、相手の反応をみる。3度目ぐらいに正式に出品を依頼する。要はこうやってお友だちの輪を広げることだ。その結果としていい展覧会が実現できる。これがAさん流「展覧会の美学」であった。

「ゲッセマネの祈り」
「エル・グレコ展」で借りた「ゲッセマネの祈り」1590〜95年頃(トリード美術館蔵 E.D.リビー寄贈)
 時は移り、出品交渉もいまは借用料から入る。欧米の大美術館にとって、日本から来る新聞社・テレビ局の展覧会担当者はカモネギだ。それも日本人同士で値をつり上げてくれる。人気のある展覧会をひとつ貸し出せば借用料だけで300万ドルほど取れる。500万ドルふっかけられたという話も聞く。「エル・グレコ展」では1点1点足で稼いで作品を集めた。まじめに努力すればお金はあとからついてきた。いまは先の見えない時代だから、人は札束に頼る。

(横浜美術館館長 雪山行二)

〜2004年2月12日付 朝日新聞(東京本社)夕刊「マリオン」から〜

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