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「悠々鑑賞米国」と「混雑日本」
 10年前のちょうど今ごろ、私が勤務していた東京・上野の国立西洋美術館は、連日「バーンズ・コレクション展」の来館者で爆発しそうだった。公園内には朝から、いつ果てるともしれない長蛇の列ができ、入館待ち5時間とも報じられた。入場者総数107万人。最終日2万4000人。図録販売数50万部。救急車の出動7回。作品借用料450万ドル、等々。

バーンズ財団外観
バーンズ財団外観=「バーンズ・コレクション展」(読売新聞社刊)より
 展覧会開催の半年前までは、ごくわずかの美術関係者を除けば、バーンズという名すら誰も知らなかった。「売り」は遺言による「門外不出」。それに「非公開」という伝説が付いてまわった。作品を展示しているフィラデルフィアのバーンズ邸の改修費調達を目的に、裁判所の許可を得て、ワシントン、パリ、東京に貸し出された展覧会だ(実はそのあとさらに3都市を巡回したと聞く)。

 1994年の暮れだったと記憶するが、巡回していた作品がバーンズ邸に戻ったという小さな記事が新聞に載った。数日後、東京・杉並のお医者さんから電話をもらった。老母が「バーンズ展」を見にいきたいと言ったが、あまりの混雑にあきらめさせた。フィラデルフィアに連れて行きたいのでアドバイスを、という用件だった。週3日は公開しているので開館の日時を確認するように。観覧料は1ドルのはず。30番街駅からタクシーで15分くらい……。2、3カ月たって同じお医者さんから丁重な礼状が届いた。母と2人で心ゆくまで鑑賞することができました。バーンズ邸は驚くほどすいていました。

(横浜美術館館長 雪山行二)

〜2004年3月18日付 朝日新聞(東京本社)夕刊「マリオン」から〜

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