世界の美術館のなかでどこが一番好きかと聞かれれば、一番ではないかもしれないがロンドン・ナショナル・ギャラリーと答える。いつ行ってもくつろいだ雰囲気にさそい込まれる。何よりも展示作品が粒ぞろいだ。作品の集め方が極端に走らず、どことなく「中庸の美徳」を感じさせるところがいい。
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| ブロンズィーノ「愛のアレゴリー」1540〜45年ごろ |
7年前の3月、慶応大学アートセンター主催のシンポジウムにパネリストとして招かれたニール・マグレガー館長(現大英博物館館長)は、ナショナル・ギャラリーの常設展示が入場無料であることの意義を強調し、その理由をふたつ挙げた。
ひとつ。英国ではいまだに階級意識が強く、また海外からの移民も多い。入場無料の方針を貫くことによって、芸術がすべての人に開かれていることを示したい。ふたつ。こちらの方が私の関心を引いた。まとまった額の入場料金を取るようになれば、たとえば昼食のあとちょっと立ち寄って自分の好きな絵と向かい合う、といった鑑賞方法がとりにくくなる。わが国の美術館とは事情が異なるとはいえ、これは正論だと思う。
私もロンドンに行くと、仕事の合間に必ずナショナル・ギャラリーをのぞく。年のせいか、このところ私のお目当てはブロンズィーノの「愛のアレゴリー」だ。10分ほどじっと見る。本当に不思議な絵だ。まわりの客からはイヤラシイオジサンと見られているに違いないが、全然気にしない。帰りには、出口の献金箱に1ポンドくらい入れることにしている。
(横浜美術館館長 雪山行二)