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美の経済学タイトル
「交渉の武器」はコレクション
 美術館の力は、基本的にはコレクションの質と量にかかっている。

 人間は無から有を生み出すことはできない。さまざまな分野で、たとえ身近なものであるにせよ、創造的活動を行うためには糧が不可欠だ。糧とは文化遺産であり、記憶といってもいい。本来すぐれた技を意味する「アート」を、モノとして情報として集積し、それを公開し、そして未来に伝えるというのが美術館の基本的使命だと、私は考えている。

ポール・セザンヌ「ガルダンヌから見たサント・ビクトワール山」
ポール・セザンヌ「ガルダンヌから見たサント・ビクトワール山」1892〜95年、横浜美術館蔵。1987年度購入。当館の目玉作品のひとつ
 もっと現実的な意味においても、充実したコレクションは美術館の活動にとって有力な武器になる。たとえば展覧会のための出品交渉だ。国内の美術館のあいだでは比較的寛大に作品の貸し借りが行われている。とはいえ魅力ある作品を多数所蔵していれば、ほかの美術館から貴重な作品を借りやすい。相手から見れば一種の貸しをつくれるからだ。また、ひとつのテーマの下にいくつかの美術館が作品をもち寄って展覧会を開催すれば、経費も安くつく。

 横浜美術館の所蔵作品は、寄贈作品を含めて現在約7800点。購入に費やした金額は91億5000万円にのぼる。公立美術館のなかではトップクラスの額とはいえ、後発の美術館にとって魅力あるコレクションをつくることは容易でない。当館の所蔵作品のなかで購入価格が最も高かったのは、セザンヌの「ガルダンヌから見たサント・ビクトワール山」の5億3475万円。この作品、内外を問わず貸し出し要請が多い。当館の親善大使として席を温める暇もない。

(横浜美術館館長 雪山行二)

〜2004年4月8日付 朝日新聞(東京本社)夕刊「マリオン」から〜

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