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画商はサギの絵が「キライ」
 今年の2月だったか、電車のなかで偶然画商のTさんに会った。話題が当時横浜美術館で開催されていた「東山魁夷展」に及ぶと、Tさんはこんな話をしてくれた。「東山先生の絵なら青い絵を買うべきだった。赤い絵を買ってしまったので高く売れなかった」。東山魁夷の絵の値段は色によって決まるのか。なるほど。

橋本関雪(1883〜1945年)「猿猴待月」1938年ごろ、愛知県美術館蔵
橋本関雪(1883〜1945年)「猿猴待月」1938年ごろ、愛知県美術館蔵
 Tさんは、大学や美術館にいては思いもつかないことを、私に教えてくれる。たとえば、同じ画家の手になる同じレベルの作品であっても、サギを描いた絵はツルを描いた絵よりも安い、とか。とくに商売をしている人はサギの絵を嫌うという。

 数年前、愛知県美術館が橋本関雪の「猿猴待月」を購入しようとして、Tさんに意見を求めたところ、「関雪の作でも玄猿(げんえん)(テナガザル)を描いた絵は高い。日本猿は安い。この猿はどちらとも言えないから、価格もその中間あたりが妥当ではないか」。エテ公にもランクがあるのか。分かったようで分からない説明だった。

 1995年10月、近代日本美術史研究の権威で、横浜美術館の初代館長も務めた河北倫明氏が亡くなられ、葬儀が東京の青山葬儀所で催された。焼香の列が延々と続いた。会場で会ったTさんに、「さすがに河北大先生のお葬式ですね。すごい数の人だ」と言ったら、Tさん曰(いわ)く、「いやいや。奥様のお葬式の時の方がずっと多かった。雪山さん、世の中って、そんなものですよ」。

 画商さんとつき合っていると、世事にうとい自分がよく分かる。

(横浜美術館館長 雪山行二)

〜2004年5月6日付 朝日新聞(東京本社)夕刊「マリオン」から〜

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