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美の経済学タイトル
問い続けたい 美術館の役割
 視覚障害者のための絵画鑑賞会というものを想像できるだろうか。目の不自由な人たちに手で彫刻に触れてもらうといったことは、すでに多くの美術館で行われている。だが、名古屋の愛知県美術館に行ってみて驚いたのは、彫刻だけでなく絵画の鑑賞会まで開いていることだ。

 それには多少準備が要る。まず鑑賞してもらう絵を決める。その写真にトレーシングペーパーをあて、輪郭線など主要な描線を写しとる。これを立体コピー機なるものにかけると、線の部分がとび出たコピーができる。目の不自由な人は指でこの線をたどりながら、学芸員やボランティアの解説を聞くことになる。

横浜美術館前に立つ筆者
横浜美術館前に立つ筆者
 具象画ならばそれでも良い。しかし抽象画、それも色彩重視の作品になるといっそう工夫が要る。時には思わず相手の腕を握り、大きく体を動かしながら、「赤い絵の具がこんなふうにグイグイ塗りつけられているんですよ」などと説明する。これが本当に絵画鑑賞なのかと問われると返答に窮するが、美術館は自分とは無縁の存在だとあきらめていた人たちにとって、この鑑賞会が大きな喜びとなっていることは事実だ。

 「美術館とは何か」「美術館は社会のなかでいかなる役割を果たすべきか」。私にも明快な答えはない。ただ美術館とは、美術作品という共通財産を絆(きずな)として、人びとが出会い、交流し、何か新しい価値を発見する場であって欲しいと思う。

 この連載は今回をもって終わります。どうもありがとうございました。

(横浜美術館館長 雪山行二)

〜2004年6月24日付 朝日新聞(東京本社)夕刊「マリオン」から〜

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