しっかり温泉で温まってからベッドに入ったはずなのに、明け方になると寒さで目が覚め、震えながら足元に丸まっている布団を引っ張ってかぶる。那須高原の梅雨は、冬の入り口と同じくらいに冷えている。
雨の森を眺めることにもそろそろ飽きたし、体の芯から温まりたい気分でもある。実はこんなときのために、梅雨入り前、いいものを作っておいた。果実酒である。農家のおばちゃんからいただいた10年ものの梅酒があまりにも美味(おい)しかったことがきっかけで、自分でも作ってみたくなったのだ。
5月の終わりごろ、農作業の合間に、漬ける実を何にしようかと物色していた時、お隣さんの田んぼの畦(あぜ)に、サクランボに似た真っ赤な実をつけた木を見つけた。それがグミだと農家のおばちゃんから聞かされた時には大感激。恥ずかしながら私、この年になるまで同名のお菓子しか見たことがなかったのである。隣の物は私の物。田舎の法則?にのっとって、さっそくサクランボよりちょっと長細い形の実を口に入れてみた。甘酸っぱい味を素直に美味しいと感じた後、口に残る渋みが少し気になったものの、慣れてしまえば美味しさの方が勝って、あとはどんどん食べまくってしまった。
味もさることながら、日差しをたっぷり浴びた実の赤い色の綺麗(きれい)なこと。透けるようでいて深みがある。採りながら何度も目の上に掲げて見つめてしまうほどだった。これは食べられる宝石。自然の美的センスは、まったくもって限りなく素晴らしい。
そばの電柱ではヒヨドリが、早く自分に順番を回せと大声で文句を言っていた。近所にはほかにグミの木は生えてなさそうだから、きっと彼らにとっても貴重なごちそうなのだろう。ごめんなさい、すぐ終わるからとわびながら、袋がわりにした軍手が両手いっぱいになるまで採らせてもらって、あとは口に詰めこんだ。その種をブブブブブッと連続で吹き飛ばした時は快感だったな。
あれからおよそ2カ月。透明な瓶の中でグミの果実酒は飲みごろになっていた。ふたを開け中身をグラスに注ぐと、甘い果実の香りと変わらぬ綺麗な赤が転がりでた。
(タレント・エッセイスト)