「でさ。どんなものなのって思ってさぁ。かおりも行ってきたわけさ」
日本人の進出が続くハリウッドから、幕末の芸者世界を「シカゴ」の監督が描く「SAYURI」の撮影を終え、帰国したばかりの深夜。クラブでシャンパンを飲みながら、桃井かおりが笑ってる。三百六十五日、「かおりはかおりなわけ」なとても素敵(すてき)な人だ。
「で、どんな感じだった?」
「ちょろいわけ。楽勝って感じ。監督もさっさと行ってちゃちゃっとやっつけちゃってよ。一緒に遊ぼ」
この人は何事にも真剣で戦いを挑む。人生を本気で、全力で楽しんでいる人だ。
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十六、七年前。私が助監督だった頃、仕事をしたことがある。その頃業界では、桃井かおりは生意気で扱いにくい女優と恐れられていた。噂(うわさ)が噂を呼び、「灰皿投げの名手」や「ビール瓶投げの酔っ払い女」と評判だった。で、実際はどうだったかというと……。噂は本当だった。といっても、灰皿やビール瓶を投げまくってるわけではない。本人に確認したところ、「ちょっとだけ投げたことがある」って程度だ。
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ではなぜ、あれほどまでにスタッフに恐れられていたのか。その答えは簡単に見つかった。誰よりも真剣に映画に向き合ってるだけなのだ。女ひとり、媚(こ)びることなく潔く生きていた。半端なヤツは邪魔なんだ。それだけなのだ。だから、媚びてなれ合い、調和をもって楽に生きていた映画人に恐れられていたわけだ。痛快だ。うらやましい。真剣による勝負であれば、負けるわけにはいかない。それは、死を意味するのだから勝たねばならない。
あの時、桃井かおりに出会っていなければ、私はあまり使い物にならない助監督のままだったかも知れない。感謝。さて、一緒にハリウッドにでも行って灰皿投げようか。