ホワイトアウトだ。
「ひえっ! な、なにも見えない」
烈風。幾重にも重なる雪のスクリーンにすべてが白に溶けていく。ここは、山形県・鶴岡……らしい。いや確かにさっきまではそれらしい景色が見えていた。でも今はただの真っ白。無だ。そして、……寒い。
■ ■
「ダメだ。宿に帰って風呂入ろう」
「せっかく来たのに?」
「何も見えないもん。ロケハンにならないじゃない」
ロケハンとは、ロケーション・ハンティングというジャパニーズ・イングリッシュを略したもので、世界中どこに行っても通じない業界用語で「ロケ場所探し」のこと。
「ここにオープンセットを建てていいんですね?」
「いや、真っ白で……」
「監督。早く結論出さないと撮影に間に合いません」
「……(スー、スー)」
「子供じゃないんだから寝たフリはやめなさい! それに、こんなとこで寝たら凍え死んじゃいますよ」
「風呂入って考えようよ。名物はだだちゃ豆だけじゃないんだ。お魚もおいしいらしいよ」
「関係ない!」
寒さは人をイラつかせるようだ。
「寒さじゃなくて、あんただよ!」
「じゃ、ここでいい」
「なに?」
「ここで風呂入ろ」
「ふざけるなー!」
■ ■
烈風の中、命がけの議論が繰り広げられる。映画は闘う芸術。友を失うことを恐れていてはキャメラは回らない。私はちゅうちょなくとどめの一撃を繰り出した。
「俺(おれ)、3月に公開の『マクダル パイナップルパン王子』のビデオ持ってるぜ」
「えっ! 早く帰って見ましょうよ」
今日のロケハンはこうして終わったのであった。
……明日は晴れるさ。