デビュー時、演芸番組の登竜門的コーナーに、いくつか出演させられた。そのどれもが、セリにかけられる子牛のような思いにさせられるものだった。その中で、一番強烈な印象に残っている番組が、横山やすしさん司会の番組で、新人が対戦して勝ち抜く趣向。しかし、収録時間を過ぎても本番が始まらない。やすしさんが泥酔状態で2時間遅刻して来たのだ。足はふらつき、顔は真っ赤で、酒の匂(にお)いを周囲に漂わせていた。そして、すこぶるご機嫌が悪い。こちらはただでさえ緊張しているというのに。
案の定と言うべきか、私が自分の持ち時間で「ネタ」をやっている時に、後ろで聞いているはずのやすしさん、「観(み)てられるか!」と吐き捨てて、セットの裏へ行ってしまわれた。審査員が投票をする段になり、突然激怒し始めた彼は、私の膝(ひざ)ががくがく震えるほどまでに叱責し、20分近く、観客も含めスタジオ全体が凍り付く。
同情票だろうか、審査員全員が私を選んでくれたので、勝ち抜いてしまった。迷惑な。これではまた出なければならない。
一年後、べつの局で西川きよしさんが司会をするはずの特別番組に、立候補の関係でピンチヒッターとしてやすしさんが現れた。何という不運。ところが、素面(しらふ)だったやすしさんは、気持ちが悪いほど私に肩入れしてくれたのだった。合掌。
〈タレント〉
(2006年4月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)