日曜日の夕方、世田谷の某所で一人寿司(すし)をつまんでいた。店主と和気あいあい、世間話に花を咲かせていたところ、店内のテレビでは、落語家が5、6人並んで大喜利をする番組が流れていた。私は、茶の間でテレビを観(み)ているように、誰に言うともなく、「この番組も、そろそろメンバーの刷新をすれば良いのになあ」と口にした。お年寄りが駄目というわけじゃないけれども、若い人達(たち)にもっと活躍の場を与えてもいいのではないかとも思えたからだ。そもそもこの番組は、30年以上も前に、30代、40代の噺家(はなしか)によって始められた生新(せいしん)な番組だったのだ。
私の何気(なにげ)ない発言を境に、店内が気まずい雰囲気になったことは、それまでにこやかに応対してくれていたご主人のよそよそしさでわかった。「あれれ、なぜにこのような空気が」と不可解ではあったが、どうも「メンバー入れ替え」発言が原因であることは間違いないようだ。救いを求めるような顔つきをしていたであろう私に、店主が抑え気味の声で教えてくれた。私の隣に座(すわ)っている2人のご婦人は、今しがた画面の中で、座布団を運んで来る係のタレントに突き飛ばされていた来年70歳になる師匠の、奥様とお嬢様だった。
もちろん次の瞬間、ご子息である30歳の噺家の名前を候補として挙げたことは言うまでもない。
〈タレント〉
(2006年8月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)