政治家の書いた本が売れているというので立ち読みをしてみるも、平積みされている台に戻して溜(た)め息をついてしまう。日本を、かつての「勇ましい国」にしてくれそうな雰囲気のお方で、若さもあり、政治家の中ではルックスも良いほうだろうし、家柄も昔から色んな意味で知られているので、絶大な支持を集めているようだ。
生活していて、何か行き詰まったり、世の中が暗くなったりすると、何かが修正されると錯覚するのか、人々は激しい物言いを求め、飽きれば更なる劇薬を欲していく。刺激的なキャッチフレーズは繰り返され、それさえ唱えていれば世の中がよくなるような気持ちがわいて、気がついた時には取り返しがきかなくなってしまっているのではないかという恐怖感が、このところ私の中で増大している。
この国は、いつしか外国へ出かけて行って、他者の命を奪うようなことにならないか。
こんなことを言うと「平和ボケ」と切り捨てられてしまうのだけれど、「ボケていられるのは平和のおかげ」だとも思う。戦争の恐ろしさ、悲惨さ、罪深さを体感した人達(たち)がどんどん少なくなって来て、それと入れ替わるタイミングで「何かの足音」が聞こえて来るような気がするのだけれども、それが、単なる私の的外れな錯覚である事(こと)を、毎日祈るのみである。
〈タレント〉
(2006年9月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)