大学でグラフィックデザインを専攻して、卒業後は基礎造形研究室で助手の見習いのようなことをやっていた。担当の実習講義がある時間、曜日、月間しか給料が出ないので、年収25万円程度。もちろんそれだけでは食べていけないので、私と同じような立場の者はそれぞれ、アルバイトをすることになる。芸大受験用のセミナーでデッサンや演奏の指導。放送局でコードさばきのアルバイトをする者はまだましな方で、学生からは「先生」と呼ばれながら、天王寺の駅でアイスクリームを売っている者もいた。学生が買いに来ると顔を隠して応対をする涙ぐましい教員生活である。
私はなぜか、北新地のディスコ(クラブと言いたいが、「北新地の」と付くと高級な方の業種と間違われてしまう)で、DJの見習いをしていた。月に10万円は貰(もら)えたので、実家にいる身分としてはなんとかやっていけた。
アイスクリーム君と同じような状況に私も遭遇している。大学での実習中に、「新地のディスコに、先生にそっくりなDJがいるんですよ」と何度も言われた。その度に、「会うてみたいもんやな」とうそぶいたが、実は見破られていた可能性も大だ。
この店でスカウトされてラジオでデビューしたのだけれど、この偶然がなければ芸大の講師か、売れない図案家になっていたのだろう。もちろん、クラブDJである可能性は、限りなく0(ゼロ)に近い。
〈タレント〉
(2006年11月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)