演技をする上で、私がこだわりを持っているのは、食べるシーンです。日常的な食事シーンで、箸(はし)の上にご飯を3粒ほどしか載せずに口に運んでいる人の芝居を見たりすると「そりゃないだろう」と燃えてしまうのです。ドラマの中で使われる食べ物は「消えもの」と呼ばれていますが、この「消えもの食い」に関しては、ナチュラルに食べるスピードと、台詞(せりふ)の絡み合いの機微を、いつも真剣に楽しんでいます。
漬物のポリポリという音が静かな食卓に響くと、そのシーンがぐっと生きたり、逆に箸や口の動きが演技の邪魔になったりする事もあり、食べ方が自然かどうかは一目瞭然(いちもくりょうぜん)なだけに工夫のしがいがあります。
「見事な食いっぷり」では、かなり上位にランクされると自負していたのですが、大林宣彦監督の「あの、夏の日――とんでろじいちゃん」という映画でご一緒した小林桂樹さんはすごかった! 小林さん演じるボケたおじいちゃんが、人の家の仏壇に供えてある白玉団子をむしゃむしゃ食べるシーンで、その素晴らしい食べっぷりにあぜん!小林さんに付いていらっしゃる妹さんがおっしゃるには「食べるシーンにはこだわりがあるんです」とのこと。さすが!日本映画界を生き抜いてこられた先達に「へへ〜っ」と頭が下がりました。
そんな私のこだわりの食事シーン、もしテレビで見かけたら、どうぞ徹底的にチェックしてお楽しみくださいね。
〈女優〉
(2007年1月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)