いてついた雪原を寒風が滑るように渡り、枯れたヨシ原がチリチリと乾いた音をたてる。その向こうで、オオヒシクイの群れが凍えるような太いしわがれ声で鳴いている。
国の天然記念物のオオヒシクイは羽を広げると160センチにもなる大型の雁(がん)だ。越冬地として飛来数日本一の福島潟には、10月ごろ北方から渡ってきて、翌年3月ごろには海の向こうの繁殖地に旅立っていく。
豪雪にもめげず、今季は例年以上の約7千羽がやってきた。「イネの株や二番穂のある水田が雪に埋まっても、潟に行けば好物のヒシの実がありますから」と、地元にある施設「ビュー福島潟」の自然指導員、小松隆宏さん(37)は話す。
99年6月、彼は地元市民と一緒に、新潟から2400キロ離れたロシア・カムチャツカ半島ヘ繁殖地探しの旅に出た。氷河の残る山脈をヘリコプターで越え、北緯56度の緑豊かな原野を空から探すこと1週間、ついにヒナを連れた1組のオオヒシクイの家族を見つけた。
「その瞬間、新潟とこの場所はつながっているんだ、と強く感じました」。渡り鳥の視点で、国境を越えた環境保全を考えるようになったのは、その体験があるからだ。
早朝、彼の案内で、野鳥の観察施設「雁晴れ舎」に行き、オオヒシクイが餌場を探しに飛び立つシーンを見た。頭上を飛び過ぎるとき、グワワンと鳴いたかと思うと、向かい風にあおられスローモーションのように羽ばたくギシギシいう音が耳に迫った。生々しくも雄々しい光景に、思わず息をのんだ。
(中村正人)