奥会津で、「織姫」に会った。
白木を組んだ機(はた)の前に座り、一心に手を動かす若い女性。規則正しいリズムは機を揺らして床に響き、くぐもった音となって雪に埋もれた戸外にも流れ出す。
昭和村は「からむし」という植物の産地で、繊維からとれる糸で布を織り、特産としてきた。そんな土地柄、村には常時数人の「織姫」がいる。十余年前から村が全国公募している、住み込みの研修生のことだ。
小さい頃から伝統工芸に興味があったという松本綾さん(21)は、宮城県の短大を卒業してすぐに応募した。「平らな気持ちじゃないと、平らかな糸はできない。根気のいる作業です」。慌てず騒がず、自然に逆らわない。雪国の暮らしそのもののようだと、彼女たちは話す。
織姫が使う機に比べ、昔ながらの「地機(じばた)」は扱いがずっと難しい。糸を腰に固定して、全身を機の一部のように動かす。
60年紡ぎ続けてきたという五十嵐貞代さん(75)。「私ら娘時代は、表を人が通る時は糸が空(から)っぺでも音良く織るもんだって、よく騒がれたもんだけどもね」。機音が良いのは上手な証拠、それが嫁入りの条件とされたんだ−−。はにかみながら織ってみせる貞代さんの地機の音は、鼓のように張りがあって軽やかで、トントンカラリとよどみない。
地機を操れる熟練者は、今や村に10人もいなくなってしまった。でも毎春、伝統の技に触れた織姫が巣立ち、その何人かは村に根を張る。
機織り作業の最盛期は3月。機音が響くと春は近い。
(兼古勝史)