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2006.3.22(木)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

大井川鉄道のSL(静岡県)

沿線の日常 汽笛を背に
早春の山里に、汽笛と、「シュッシュッ」というドラフト音を響かせながら疾走する大井川鉄道のSL=静岡県川根本町の田野口駅付近で(撮影・垣内博)

【SLに乗る】JR静岡駅から東海道線・金谷駅まで約35分。大井川鉄道始発・金谷駅は同構内。車では駐車場のある新金谷駅へ。東名高速・相良牧之原インターから25分。
 昼下がり、短い汽笛が鳴った。奥大井・千頭(せんず)駅は、山に囲まれた周りの地形そのものが天然のホールであるかのように、残響が広がる。その中を、呼吸にも似た荒々しい蒸気音とともに、SLが動き始めた。

 30年前、観光資源として蒸気機関車を復活させた大井川鉄道。戦後まもなく電化されるまではSLの本数も多く、汽笛は住民の生活にとけ込んでいた。それを示す逸話も残る。

 ――山仕事の男たちが、汽笛で時を数え、食事の合図にしていた。ある日「あと一つ鳴れば昼飯」というところで列車が遅れ、いつまでたっても汽笛が聞こえない。男たちは鉄道会社にねじこんだ。「汽笛が遅れると体がもたない」――

 今でも、汽笛は暮らしとつながっている。沿線の川根町で食堂を営む市川きみ子さん(54)は、夕方の汽笛を耳にすると、ほっと一息をつく。「今日の仕事も、もうすぐ終わりだ」。千頭駅の近くにある小学校は、標語に「あいさつと汽笛がひびくぼくの町」と掲げる。

  汽車の運転士も心得ていて、民家の軒先に乳児用の衣類が干してあれば、赤ん坊を起こさないよう汽笛の鳴り始めを心持ち優しく加減する。温泉の露天風呂の近くを通るときや、子どもが手を振ったりSLファンがカメラを構えていたりすれば、表情豊かに鳴らしてみせる。

 千頭駅で乗り込んだ客車は、昭和初期に活躍していた年代物だという。木製の車体のニスの香りと、足元の感触。聞きなれた電車のものとは違う、柔らかく軽やかな走行音に包まれた。

  (兼古勝史)


 ◆ 大井川鉄道のSL

 もとは大井川沿いのダム建設資材や沿線の農産物、木材を運んでいた私鉄。1949年に電化されたが、76年、観光用にSL運行を再開。国鉄(当時)が営業用SLを全廃した翌年だった。各地から引退したSLを集め、現在「金谷駅」から「千頭駅」までの本線39.5キロを約1時間20分で走る。3月中は原則1日1往復、4月以降は2往復の日も。臨時便あり。問い合わせは同鉄道(0547・45・4112)。
 
 ◆車中で味わい、遊ぶ

 旅のともには、「SL復活30周年記念弁当」(1000円、4月1日から販売)、ヤマメの甘露煮を詰めた「大井川ふるさと弁当」(1000円)など。できれば前日までに予約を。問い合わせは大鉄商事(0547・45・2230)。竹製の「SL汽笛ぶえ」(577円)の車中販売も。
 
 ◆大井川の吊り橋巡り

 架橋が禁じられていた江戸時代には、旅の行く手を阻んだ大井川。今では気軽に渡れる10余の吊(つ)り橋が架かり、地域の人々の暮らしを助けながら、観光の絶景ポイントに。千頭駅から徒歩15分の「両国吊橋」からは、井川線のミニ列車を眼下に望める。また同駅からバス40分さらに徒歩30分で、エメラルド色の湖面が広がる「寸又峡(すまたきょう)夢の吊橋」へ。
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