大鳴門橋の下で、潮の流れが突然、滝のように流れ落ちた。のたうち回る潮がぶつかりあい、渦となって口を開く。そのたびにゴーッと、低いうなり声をあげる。
渦の間を、観光客を乗せた「観潮船」が巧みにすり抜けていく。昼下がりのまばゆいばかりの陽光の下、船のデッキに立ちすくむ。目の覚めるようなすがすがしい清涼感。まるで巨大な洗濯機の中に放り込まれたかのような迫力だ。
満潮時、太平洋から北に向かう潮が紀伊水道で二手に分かれ、一方は鳴門海峡に。もう一方は淡路島の東から明石海峡を経由して、はるばる鳴門海峡に回り込む。その間、約6時間。再び出会う時、干潮を迎えた鳴門海峡では北と南の潮位差が最大になる。春と秋の大潮だと1メートル以上にも。潮が流れ落ち、砕ける激流の音を地元の人は「潮鳴り」と呼ぶ。
「渦って不思議なもんでね」。そう話すのは、観潮船の船長、向孝行さん(57)。「潮位差があっても大きな渦ができるとは限らない。北風では波は立つけど渦はダメ。晴れて南風がそよっと吹くくらいが、きれいな渦のできる条件。耳を澄ますと、海中に吸い込まれていくような渦の音が聞こえますよ」
船を降り、大鳴門橋の下に設けられた遊歩道『渦の道』を歩いた。約1時間後、無数の渦がほどけるように消えていき、あれほど騒がしかった海峡が静まり返っていった。潮待ちしていた漁船の群れも近づいてきた。うそのような静寂。拍子抜けするほど、のどかな春の海があった。
(中村正人)