山の清流が樋(とい)を伝って一気に流れ込み、鉄製の心棒がグリグリと音を立てる。直径5メートル近い巨大な輪が、せき立てられるような激しさで回り、4秒ほどで1回転する。ほとばしる水は、蒸気機関車のようなアップテンポのリズムを刻んで水受けを打ち、勢いよく飛び散っていく。
中国山地の奥深い渓流沿いに、まもなく「70歳」になる今も現役の、製材水車がある。ノコギリを毎分800回転させる力は、電気モーターに引けを取らない。厚さ1・5メートルの木材も切断できる。
「現役の製材水車は、ほかには静岡県に一つあるだけです」。岡山理科大学で物理学を研究する若村国夫さん(60)は、長らく全国の水車の実態を調べてきた。30年ほど前の調査で、現役の水車が一番多かったのは岡山県だった。「急流の川が多く、動力を得やすかったからでしょう」。美作をはじめとする県北地方には、最盛期の明治中ごろ、紙漉(す)きや米つき用の水車が800台以上あった。昭和30年代まで、谷あいごとに十や二十は見受けられたという。
今では、現役で仕事をしている水車は県内にもわずかしか残っていない。動いているのはほとんどが、観光や町おこしの目的で再現されたものだ。本来の水車は、年配の人の記憶の中で原風景として生きるだけ。そうなりつつある。
この製材水車も、今では月に数回しか出番がなくなった。作業が終わると水がせき止められ、動きが止まる。先ほどまで目に見えていた自然の力が、静かな水しぶきと渓流の音に姿を変えた。
(中村正人)