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2006.5.17(木)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

四尾連湖(山梨県市川三郷町)

「天国」の静寂、年を経て
静寂に包まれた山上の湖。湖畔の桜が散り、やっと周囲の森も新緑に染まり始めた(撮影・上田頴人)

【交通】四尾連湖へは、JR甲府駅から35分で市川大門駅、さらにタクシーで約30分。車は中央道・甲府南インターから約50分。
 星明かりの下、湖の対岸の、森の小動物の気配が間近に感じられる。樹上のムササビ、遠くにフクロウのくぐもった声、ヨタカの鳴く連続音……。ホトトギスが時を告げ空が白み始めると、目覚めた小鳥たちが歌い出し、山から天然の反響を伴って湖畔に降り注ぐ。

 四尾連湖は周囲1キロほどの小さな湖だ。山の中腹にあり尾根で囲まれているので、人里から比較的近いのに下界の音がほとんど聞こえない。

 「物音がふと静まった瞬間、本当にシーンという音が聞こえるんですよ」。地元で山荘を営む望月公彦さん(64)が言う。教師だった祖父が、わらぶきの農家を湖畔に移築して隠居暮らしを始めたのは60年以上前のこと。戦争中に家族も移住、戦後に宿を始めた。建物は建て替えたが、親子3代で守ってきた宿だ。

 子どもの頃は対岸で耳を澄ますと宿の柱時計が時を刻む音が聞こえた、と望月さんは言う。祖父の記憶は、応接間に掲げた書。「ここは天国なり、皆様は天人なり」。ここは天からの預かりもの、訪れる人も自分たちも、謙虚に穏やかに過ごしたい−−そんな「家訓」だ。

 亡き母親は先代おかみとして教えを守り、暇さえあれば湖の掃除を心がけた。物心がつく前からずっとここで育ってきた望月さんも、役場を早期退職して「ごく自然に」この道を継いだ。「木がずいぶんと伸びて山が大きくなった感じはするが、何もない静寂は昔のままです」

 昨年、四国へ嫁いだ娘夫婦が戻ってきた。湖を見守る宿の、いずれ4代目となるはずだ。

(兼古勝史)


 ◆自然を体感

 桜や山野草の観賞、鳥類の観察、釣りやキャンプなど四季折々の自然が楽しめる四尾連湖。湖から約1時間半のハイキングコースで蛾ケ岳(ひるがたけ)山頂へ。富士山、南アルプス、甲府盆地などが望める。JR身延線・市川本町駅から同湖まで、約6キロ、3時間ほどのコースも。問い合わせは市川三郷町産業振興課(055・240・4157)。

 ◆森を愛した詩人

 四尾連湖畔に素朴な小屋を建て、独居生活を続けた詩人・野沢一。俗世を離れ、自然などを題材に詩作にふけった。湖畔から15分ほど登った峠には碑が建ち、「小鳥はあのたのしいさわがしい唱をうたい……」と、湖をうたった詩が刻まれている。甲府市の山梨県立文学館(TEL055・235・8080)では、野沢作品と関連資料を所蔵。

 ◆ふもとは花火の町

 四尾連湖の足元にある市川大門地区は、花火の産地。戦国大名・武田信玄が戦時にあげた「のろし」が始まりで、観賞用として盛んになったのは江戸中期頃という。毎年8月7日には、河川敷で「神明の花火」大会を開催。約2万発を誇る。

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