日本海に突き出した能登半島。その先端に近い輪島の街の目抜き通りは、毎朝250もの露店がずらりと並ぶ。通称「朝市通り」。一歩足を踏み入れると、その場を満たす音の泡に、優しく包まれる。
「買(こ)うてくだぁ、全部で千円、千円」「魚汁(いしる)、おいしいよ」「ホタルイカどうですか」……。歩くそばから、車窓の景色のように呼び込みの声が変わっていく。
ここの朝市は千年の歴史をもつ、そう地元では言い伝えられている。戦後しばらくたっても生鮮食料品店が一軒もなかった街で、長く市民の台所を支え、市民の会話が弾む憩いの場にもなってきた。高度成長期の観光ブームを経て、輪島は能登半島の周遊拠点となり、ピーク時には年間250万人が訪れた。朝市も、全国に名を知られるようになる。
家族で鮮魚を商っている浅野節子さん(67)は、嫁いで以来40年以上、ずっと朝市に立ってきた。観光名所になったことで、今度は旅人との出会いが楽しいという。「カニがおいしかったって、秋田からお米を送ってくれたり、親類みたいなつき合いしとる人もいるわね」
店に立っているのは、ほとんどが女性だ。威勢の良い声に、こちらも心が浮き立つ。力強い声に囲まれていると、この人のこの腕が、何人の生活を支えているのだろう、思わずそんなことを考えてしまう。
亭主の一人や二人養えない女は甲斐性(かいしょう)なし−−そんな言い回しがある、ここ輪島。女たちの気骨は、今も変わらず響いてくる。
(鳥越けい子)