梅雨空の雲のすき間から薄日が差し込む。杜(もり)の都・仙台市。街並みを見下ろす青葉城の南の、鬱蒼(うっそう)とした渓谷を歩く。広瀬川に合流する小川の遊歩道で、ふいに澄んだ声が聞こえた。フィフィフィフィ……。ふっくらとした透明なトレモロの響き。カジカガエルの鳴き声だ。一匹だけかと思ったら、すぐに数匹の声が重なり、周囲の森にこだました。
深い山あいの清流に生息し、新緑の季節になると、繁殖期を迎えたオスが石の上でメスを呼ぶ。その美声を、仙台では、駅から車で数分という市の中心部で聴くことができる。
60年代前半には、生活排水で川の汚染が進み、姿を消したこともある。下水道の整備と、子どもたちによる放流などの努力で復活した。
「今年は雪が多かったせいか水が冷たくて、出てくるのが少し遅いようです」。市の環境局に勤める吉本守一さん(52)は、清流の目安にもなるカジカガエルを探し、広瀬川をよく歩く。小中学生と実地調査をして「カエルマップ」も作った。長く騒音規制の仕事をしていたが、「皆にいい音を知ってもらう方が効果的だって気づいたんです」。
教えられた生息場所を歩いてみた。一日つぶしても出会えず、あきらめかけていた翌日の昼過ぎ、耳に飛び込んできた。鳥のさえずりに比べるとまろやかで、口笛のようなやさしい声。普通は朝と夕に鳴くというから、幸運に感謝した。渓流の音にかき消され、もどかしいけれど、目を閉じると、耳が開かれていくのがわかる。のどをふくらませて鳴く姿が目に浮かんだ。
(中村正人)