マリオン・コムロゴ
2006.8.2(木)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

被爆のクスノキ (長崎市)

平和の祈りを包む葉音
平和を祈願する千羽鶴が飾られている被爆クスノキ。居合わせた子供たちがかくれんぼを始めた=長崎市坂本2丁目の山王神社で、(撮影・上田頴人)

【交通】山王神社へは、JR長崎駅前から長崎電気軌道に乗り、大学病院前電停下車。徒歩7分。
 セミ時雨の中、石畳の古い坂道を上ると、波のような音に包まれた。枝いっぱいに茂る葉を大きく風になびかせる、クスノキの巨木が2本。深いゆったりとしたざわめきが頭上から降り注ぐ。小鳥のさえずりや子どもたちの歓声、坂下の路面電車、寺院や教会の鐘、港の汽笛……一日たたずめば、様々な音が重なる。

 長崎・山王神社のクスノキは、樹齢400年とも600年とも言われる。人々の営みをずっと見つめてきた巨体には、大きなつめ跡が残る。

 61年前の8月9日、800メートル離れたところに原子爆弾が落ちた。

 神社の氏子の森田博満さん(71)は当時10歳だった。爆弾が落ちてくるところを、その目で見た。一緒にいた兄は、後に亡くなった。焦土の中、半ば黒焦げとなったクスノキが記憶に焼き付いている。「前は、すごい鬱蒼(うっそう)としとったのに……」

 18歳になって東京の鉄骨会社に就職。10年働き技術を身につけ、独立しようと長崎に戻った。再会したクスノキは青々と葉を茂らせ、ざわめきを奏でていた。終戦後ほどなく芽吹いたという。「枯れたと思うとった木が生き延びて、昔とおんなじ、こげん音まで出すようになったかと。感無量でした」

 それから四十余年。さわやかな風とクスノキの葉擦れの音に、平和をかみしめる。

 7年前、森田さんは、1本の苗木を母校に贈った。巨木の種を譲り受け、大事に育てたものだ。被爆の記憶を受け継ぐ木。小学校の校庭で、今では背丈4メートルにもなった。

(兼古勝史)


 ◆山王神社に残る原爆のつめ跡

 原爆で神社の建物はほぼ全壊したが、入り口にある2本のクスノキは生き残り、再び芽吹いた。「2カ月後」「2年後」など諸説ある。半世紀近くが過ぎて一時は樹勢が衰え、市民でつくる「守る会」が募金活動などをして治療にあたった。神社参道の鳥居は、爆心地側の柱がもぎとられ、残りの柱1本だけで立っている。長崎市坂本2丁目。問い合わせは山王神社(095・844・1415)。
 ◆平和への祈りの地

 原爆が投下された浦上地区は、平和の尊さを発信する施設が点在。平和公園には平和祈念像があり、上に指した右手は原爆の脅威を、水平に伸ばした左手は平和を表す。
 ▼長崎原爆資料館は、約900点を展示。午前8時半〜午後6時半(9月以降は5時半まで)。200円、小中高生100円(8月9日は無料)。TEL095・844・1231。
 ▼戦後再建された浦上天主堂には、被爆した聖像やマリア像がたたずみ、2鐘のうち残った片方が、1日3回鳴り響く。午前9時〜午後5時。(月)休み。TEL095・844・1777。
 ◆長崎さるく博

 10月29日(日)まで、市内を歩いて歴史や文化、景観を楽しむイベント。「さるく」は、長崎弁で「ぶらぶら歩く」こと。洋館や唐人屋敷跡、坂本龍馬ゆかりの地などをめぐる全42コース。問い合わせは事務局(095・811・0369)。
(2006年8月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)
→日本音紀行 もうひとつの風景 バックナンバーへ

asahi-mullion.comトップページへ
サイトマップ | 会社案内 | 朝日マリオン・コムとは | 姉妹メディア | 会員規約 | 個人情報・著作権
asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2006 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.