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2006.9.13(水)更新  日本音紀行 もうひとつの風景

詩仙堂の鹿おどし (京都市)

庭を満たす「間」の静寂
心やすまる静寂の庭園に一定間隔で心地よい「鹿おどし」の竹音がひびく=京都市左京区一乗寺門口町で、(撮影・塚原紘)

【交通】詩仙堂へは、京都駅前から市バス岩倉操車場行きで約40分、一乗寺下り松町下車、徒歩約10分。
 庭に広く開かれた畳の間に座る。目の前の白砂がまぶしい。束になったセミの声が、押し寄せては遠のく。時の流れにゆったりと身をまかせる。ふいにどこからか、カタンという音。まどろんだ耳が、心地よく覚める。

 音の主は「鹿(しし)おどし」。水を引き入れた竹筒が、水の重みで反転し、石を打つ仕掛けだ。もとは田畑を荒らす動物を追い払うための民具だった。庭園に使ったのは、ここ詩仙堂が始まりだという。

 今は禅寺になっている詩仙堂は、江戸時代初期の文人・石川丈山が、隠棲(いんせい)生活のために建てた。徳川家康に仕える武門の生まれながら、漢詩や書に長じた丈山は、作庭家でもあった。

 鹿おどしは、庭の石段を降りた左手にあるが、姿は屋内から全く見えない。音は忘れかけたころにやってくる。テレビなどでおなじみの、長い余韻はない。あれは効果音なのだ。本物は、実に素朴な音。これを丈山が終(つい)のすみかに採り入れたのはなぜか。

 史料はないが、住職の石川順之さん(53)の説は「静寂を楽しむため」。先代から、静寂を一層引き立たせるためだと聞いている。大切なのは竹筒の音そのものではなく、音と音の間、というわけだ。

 確かに、その間を満たすのは「うつろな静けさ」ではなく、「充実した静寂」だ。土地が奏でる自然の響きや、季節の移ろいを常に新鮮に受け止めたい−−。世俗を離れ漢詩の世界に生きた丈山らしい美意識だと思う。

(鳥越けい子)


 ◆詩仙堂

 名の由来は、漢詩に精通していた丈山が、狩野探幽筆の中国詩仙36人の肖像上に各詩を書き込み、四方に掲げた「詩仙の間」による。丈山は没するまでの約30年、詩仙堂で文人生活を極めた。庭園にある「鹿おどし」は、鳥獣はらいという実用目的を超え、丈山が風流ととらえた音を響かせている。京都市左京区一乗寺門口町。午前9時〜午後4時45分。500円、高校生400円、小中学生200円。TEL075・781・2954。
 ◆庭園めぐり

 京都散策の楽しみの一つ、庭園観賞。名庭園から穴場まで、それぞれに形式や風情がある。
 ▼「宝泉院」=客殿の柱などを額にみたて、内側から竹林や樹齢約700年の松をのぞむ「額縁の庭園」。左京区。午前9時〜午後5時。茶菓子付きで800円、中高生700円、小学生600円。お問い合わせは075・744・2409。
 ▼「龍安寺」=15の石を配置、見る位置によって数が変化。右京区。午前8時〜午後5時(12月〜2月は8時半〜4時半)。500円、小中学生300円。お問い合わせは075・463・2216。
 ▼「無鄰菴」=東山を借景に、三段の滝などを配する。左京区。午前9時〜午後4時半。小学生以上350円。TEL075・771・3909。
 ▼「東福寺」=コケと敷石がモダンな市松模様を織りなす方丈北庭。東山区。午前9時〜午後3時半(11月は8時半〜4時)。400円、小中学生300円。お問い合わせは075・561・0087。
(2006年9月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)
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