明かりもない洞穴内を、入り口からの日差しを頼りに歩く。水滴の音が聞こえてくる。突然、頭上でパタパタとはためくような音がして、コウモリの影が乱舞した。鋭い鳴き声が岩に乱反射し、闇が無限に広がっていくような錯覚に陥る。
高知・室戸岬の、太平洋の波が洗う海岸から国道を挟んでそそり立つ切り立った岩壁。そこに、二つの洞穴が口をあける。左にあるのを、御厨人窟(みくろど)と呼ぶ。平安時代の高僧・弘法大師が若い頃、この地で修行したとされる。御厨人窟で寝起きし、そこから空と海を見て、名を空海に改めたという言い伝えが残る。
外に出ると、風の音や鳥の声が、より新鮮に聞こえてくる。鳥居のある入り口で向きなおり、海を背にした、その時。岩に砕け散る波音が、いきなり耳もとで響いた。あまりに至近距離で、しかも雷のように聞こえたので、驚いて海を振り向くと、その音は幻のように消えてしまった。どうやら岩壁に音が反射して聞こえるらしい。
「突然、おなかにドーンと響くような音が聞こえるやろ。最初は何や思うて、そらびっくりしたわ」。10年前から入り口脇の案内所で働く山下佐恵子さん(66)。「昔の人がいうにはな、こんな音が洞窟の中でも聞こえてたって」。
国道が通り、環境も変わった。今ではこの音は、中にいたのではなかなか耳に届かない。風が強く大波が寄せるとき、よく聞こえると山下さんは言う。「ご縁があれば、お大師さんの聞きはったような音が体験できるにな」。
(横内陽子)
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◆空海修行の地
御厨人窟からのぞむ太平洋。辺りは日の出の観賞スポットで、特に9月下旬から3月下旬にかけて出現する「だるま太陽」は有名。海面からたちのぼる水蒸気で光が屈折して起こる現象で、水平線上にだるまが顔を出したように見える。室戸岬は、御厨人窟がある東側で「だるま朝日」、西側で「だるま夕日」と両方がのぞめる場所で、多くのカメラマンが撮影に訪れる。今春、土佐くろしお鉄道に、漫画家のやなせたかしさんがデザインしただるま夕日をあしらった列車も登場した。
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◆鯨のまち
江戸時代、捕鯨の基地として栄えた室戸。沖合にはマッコウクジラなどが回遊し、一年中その姿が見られる。「道の駅キラメッセ室戸」鯨館にある資料館では、数隻で網に追い込み銛(もり)で仕留める古式捕鯨を再現したジオラマや、骨格標本などを展示。入館料350円、高校生以下150円。室戸市吉良川町。午前9時〜午後5時(11〜2月は4時まで)。(月)((祝)は翌日)休み。問い合わせは鯨館(0887・25・3377)。併設のレストラン(午前10時〜午後8時)でクジラの刺し身や竜田揚げなども楽しめる。
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(2006年9月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください) |
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