ある晩、うぬまさんから電話が入った。
「森沢くん、いまサバが入れ食いだってよ。
すっげー釣れるらしいから、行こうよ!」
秋に釣れる東京湾の新鮮なサバは、
目が白黒するほど美味い。
「いくいくぅ〜!」
ぼくは〆切間際の原稿をポイポイっと放り投げて、
翌朝早くからひょいひょいと
八景島のマリーナへと飛んでいったのである。
天気は快晴♪
「うぬまさん、おはよーっす!
んじゃ、さっそく、イキマショウ♪」
と、ぼくは何十年も前のCMにあった
エマニエル坊やの真似をして
船に乗り込んだのだが、しかし、船長のうぬまさんは
出船してすぐ、マリーナのすぐそばの浅瀬で船を停めて
イカリを下ろしてしまったのである。
「ん? サバは?」
首をかしげたぼくに、うぬまさんは無言のまま
シュノーケルと水中マスクと足ヒレと、
そして錆びついた金属のヘラを差し出した。
「な、何スか、コレ……?」
「奴隷であるキサマには船底掃除を命じる。
船底がキレイになったら釣りをさせてやろう」
オーマイッ! ぼくは頭を抱えた。
や、やられた……。
潜りが得意なぼくに、船底にびっしりついた
フジツボはがしを手伝わせようという魂胆だったのだ。
でも、口惜しいけれど、
船がすいすい動かないことには
今後の釣りも楽しめないのは事実なのだ……。
「奴隷1号、飛び込め〜っ!」
ボシャン!
というわけで、ぼくとうぬまさんは、
2時間もかけて、船の底をガリガリと
金属のヘラでこすりまくったのであった。
予想外の、とんだ重労働である。
(2 につづく)