|
| |
|
第17回 マタギの里の秘境を走る山間鉄道
秋田内陸縦貫鉄道(鷹巣―角館)
|
|
秋田内陸縦貫鉄道(あきたないりくじゅうかんてつどう)は、マタギの里の秘境、鷹巣(たかのす)―角館(かくのだて)間、94.2kmを走る第3セクターのローカル線。鉄道誘致運動は明治末からあり、80年の歳月を要し、1989(平成元)年に全線開業した。第3セクターとしては全国屈指の長い路線(所要約2時間30分)となっている。
文=芦原 伸(紀行作家) 写真=井上廣和(写真家)
|

奥羽山脈を流れる阿仁川の鉄橋を渡る軽快気動車AN8800型電車。萱草―笑内間
|
|
| |

線路の傍らには秋田杉の木立が林立する。米内沢―桂瀬間 |
みちのくの異郷への入り口

JR奥羽本線、鷹ノ巣(たかのす)駅の脇に高原ロッジ風の秋田内陸縦貫鉄道の鷹巣駅がある。喫茶店と間違えてしまいそうだが、こちらの駅名は町名と同じ「鷹巣」だ。風呂敷包を抱えたばあさんがふたりでおしゃべりしているが、会話の内容はまったく不明だ。いきなり異郷へ踏み入ったという旅の実感がある。
米代川(よねしろがわ)を渡る。1両だけの気動車はエンジンをふかせて急勾配を登る。両側から秋田スギの深い森が迫り、すすきが穂をうなだれ、逆光に照らされている。
|
| |
開通まで80年の長い道のり


現在は東北ののびやかな風景が楽しめる観光路線としても定着 写真協力=天夢人 |
もともと国鉄時代に阿仁合(あにあい)線【鷹ノ巣―比立内(ひたちない)】と角館(かくのだて)線【角館―松葉】があった。1984(昭和59)年、国鉄再建法に基づき、次々とローカル線が廃止された。そのなかで時代に逆行するように秋田内陸縦貫鉄道は誕生した。
大正時代、鷹ノ巣と角館を結ぶ「鷹角(ようかく)線」の計画があり、工事は双方から進められ、1936(昭和11)年、阿仁合まで開業した。
ところが日中戦争がはじまり、工事は中止。続く太平洋戦争では、政府は地方線の建設などに手がまわらなかった。戦後、計画は続行し、1963(昭和38)年に比立内まで延長開業となる。その後角館線(角館―松葉、19.2キロ)が開業したのは1971(昭和46)年。そして平成元年、念願の縦貫鉄道が誕生し、全線が結ばれる。
|
| |
話題を呼んだ全国初の女性鉄道運転士

開業当時にはさまざまなエピソードが誕生した。1990年(平成2)、全国初の女性鉄道運転士が誕生。ご本人はその後、結婚退職されたようだが、鉄道は明るいイメージに一変した。
JR東日本と提携しての「さくら号」も話題を呼んだ。さくらの時期に合わせた季節列車の運行で、東北の二大花見の名所、弘前と角館を内陸縦貫鉄道で結び、同日に花見ができる、という画期的な試みだ。さらに「大曲の花火大会」や「いぐ来たなぁ〜」(帰省時)や「もみじ」などの季節臨時列車も好評だ。
|
| |
鉱山の町も今は廃れた

「阿仁合です。かつて鉱山で栄えた町で、駅前の伝承館がその面影を伝えてくれます」
車内には女性のテープアナウンスが流れる。トンネルを抜け、鉄橋を渡ると、阿仁合の町が現れた。かつてここには阿仁鉱山があり、栄えたところだ。
続く比立内は無人で、新しいコンクリートの駅だが、国鉄時代、長い間この駅が終着駅だった。米代川の支流、打当川(うっとうがわ)に沿って、沿線は山また山である。ブナ、モミジの広葉樹林が広がり、天然スギが天を突き、モロビ(オオシラビソ)の原生林が乳白色の霧に浮かぶ。
(写真右)モダンな三角屋根の駅舎の阿仁合駅。かつては阿仁鉱山の町として栄えた。駅前の伝承館では当時の歴史を知ることができる
|
| |
|
伝説の狩人“マタギ”の温泉
|
「阿仁マタギの温泉」は打当にある。打当は昭和30年代まで数十人のマタギが住んでいた。2000(平成12)年、ここに温泉宿が誕生した。湯は弱食塩泉で、リウマチ、運動器障害、創傷に効能があり、ジャグジー、サウナ、露天風呂もある。日帰り入浴もOK。レストランには「またたびラーメン」や「熊肉ラーメン」などの珍味もある。
|

宿にはマタギに関する資料が展示されているマタギ資料館も併設されている 写真協力=天夢人
|
|
|
| |

夕暮れ、雪のなかの西明寺(さいみょうじ)駅のホーム。終点の角館はまもなくだ |
しだれ桜の城下町“角館”へ

比立内から角館ゆきの、ディーゼルカーは大覚野峠(だいかくのとうげ)を越えると、スピードをあげて峠を下る。
「比立内から先は線路の状態が一変する。堅固で新しい盛土、高架線、トンネル、そしてカーブがゆるやかになる。新幹線のようだ」
紀行作家の宮脇俊三氏が書いたように、比立内からは盛土の専用軌道を走るので、眺めもよく、走りも安定している。
終点、角館はしだれ桜と江戸時代の武家屋敷(※地図のイラスト)、秋田美人で知られるところ。角館から横手(よこて)、湯沢(ゆざわ)へと続く南北のラインが秋田美人の産地のようだ。うまい地酒と雪肌の美女との出会い、期待がふくらむ旅である。
|
| |

イラスト/石原ケンジ
|
≪奥羽本線・鷹ノ巣駅への鉄道アクセス≫
東京から
東京→秋田(JR新幹線「こまち」)
秋田→鷹ノ巣(JR奥羽本線)
計17100円
大館能代空港から
大館能代空港→鷹ノ巣駅前(連絡バス)
270円
|
|
|

著者/芦原 伸 (あしはら・しん)
|
1946年生まれ。北大文学部卒。鉄道ジャーナル編集部勤務の後、フリーランスに。現在は(株)天夢人TEMJIN代表。日本旅行作家協会常任理事。日本ペンクラブ会員。著書には『旅はひとり旅』(朝日新聞ブックレット)、『鉄道ひとり旅』(講談社)、『ロシア一九九一、夏』(角川学芸出版)、『鉄道おくのほそ道紀行 週末芭蕉旅』(講談社)、『60歳からの青春18きっぷ』(新潮社)ほか多数。
|

写真/井上廣和 (いのうえ・ひろかず)
|
1951年横浜生まれ。中学生から蒸気機関車を撮り始め、広田尚敬の助手を経て独立。鉄道写真では「四季をめぐる」をテーマに、色彩に包まれた車両たちを狙っている。日本写真家協会会員。『日本の私鉄シリーズ』(保育社)、『ぼくは5000がたでんしゃ』(小峰書店)、『ヤマケイレイルブックス』(山と渓谷社)、『JR全車両大図鑑』(世界文化社)ほか。
|
|
| |
|
(商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。)
|