
【イラストより】珪藻土の層を七輪の大きさに手彫りで切り出していく。
|
第2回 切り出し七輪
 石川県珠洲市 |
|
暗いトンネルの底で、カツッ、カツッと壁を掻(か)くような音が響いている。
粗掘りのトンネルはどこまでも続いている。空気がひんやりしている。ぬれた地面に、足をとられないように歩く。
地下30メートル、さらに奥へ約300メートル。トンネルは壁にぶち当たる。切り出し職人、生瀬秀一さん(67)は1人でそこにいた。大型の平ノミを手に、土の壁面に向かう。壁一面を平らに削り落とし、表面に格子状に線を引いて溝を彫っていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
溝の深さは約50センチ。それが七輪の高さになる。溝を彫り終わると、背面だけが壁につながった四角い塊が格子状に並ぶ。クサビを打ち込んで、塊をはずしていく。昔ながらの手作業。1段分で、ほぼ1日が終わる。生瀬さんは、もう50年この仕事を続けてきた。
「モグラみたいに、よく穴ばかり掘ってきたもんだ!」
掘っているのは珪藻土(けいそうど)の地層。珪藻土は、ハネケイソウやツノケイソウ、プランクトンなどの藻類や単細胞生物の膜が珪酸化し、淡水や海水の底に堆積(たいせき)してできた土だ。1200万年前の地層から産出する。
能登半島の先端にある珠洲市一帯は、珪藻土の地層が無尽蔵に広がっているといわれる。江戸時代から、村人がこの土を掘り出しカマドや七輪を作ってきた。
天然物の七輪は、地層から切り出した塊を、1個ずつ手作業で火袋や戸口を彫ったあと、800度で45時間かけて窯で焼き上げる。
珪藻土は粘度が高く、焼くと締まって丈夫だ。塊から彫った七輪は多孔質で火おきがよく、火力が強い。安価な七輪は崩した土を練って型にはめて作るので、圧縮されて気孔がつぶれてしまう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
七輪は、手軽に持ち運びができる調理道具。少量の炭で強い火力が得られる。戸口を開き、うちわであおぐと千度近くまで温度が上がる。だが、その割に外側が熱くならない。耐火、保温性に優れ、火持ちがいい。
強い火力で煮炊きした料理はおいしい。これからの季節、七輪を使って炭火でジュウジュウ焼いたサンマのうまさは格別だ。美食ざんまいの殿様だってよだれを流す。
七輪の名は、かつて7厘の値で買えたからとも、7厘の炭でまかなえたからとも、また、火袋の底の空気孔が七つになっているからともいう。まさに七輪は日本人の暮らしの知恵が生んだ偉大な道具である。
 | | 松井秀喜選手の活躍で話題の珠洲市の海岸にあるゴジラ岩 |
|
|