
【イラストより】木曽のサワラを柾目(まさめ)に割り、一枚一枚、銑(せん)で削っていく。
|
第22回 おひつ
 長野県上松町 |
|
中山道、木曽十一宿。そのなかほどにある上松(あげまつ)宿は、中央アルプスの主峰、木曽駒ケ岳(2956メートル)を間近に仰ぎ見ながら、木曽谷の懐に抱かれている。
町を流れる木曽川は、激流に削られた荒々しい渓谷美を見せる。浦島太郎伝説ゆかりの「寝覚(ねざめ)の床(とこ)」はここにある。竜宮城から戻った太郎が、この地でお土産の玉手箱を開けて300歳の老人になったという話が語り継がれている。
かけはしや 命をからむ 蔦(つた)かづら
俳人、芭蕉が詠んだ上松町は、昔から木曽ヒノキの集散地として栄えた宿場町だ。ヒノキ、サワラ、ネズコ、アスナロ(ヒバ)、コウヤマキ。お留め山に守られてきた木曽五木をはじめ、良質の木材を利用した手仕事の町でもある。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おひつの材料はサワラ。木質が柔らかく加工がしやすい。臭みがなく、水に強く腐りにくい。昔から風呂桶(おけ)やおひつなどに使われてきた。
職人は底冷えのする板の間で、靴を脱いで仕事にとりかかる。
「足も手の代わりになる。靴を履いてちゃ仕事にならない。冷え性で、足が不器用な人間は桶屋にはなれない」
田上定行さん(41)は親子2代の桶職人。この道23年になる。若いが腕にも足にも筋金が入っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
十分乾燥させた原木を、作るおひつの高さに合わせて玉切りし、赤身だけを湾曲したナタで柾目(まさめ)の板に割っていく。
割った板を、台と「ヘソ」と呼ぶ胸当てで押さえて刃がカーブした銑(せん)で内側を削る。それを「正直ガンナ」で板の合わせの角度に削る。桶やおひつの大きさによって角度が違う。桶は内側の継ぎ目がぴったり合っていないと水が漏る。ごまかし仕事はできない。「正直」に角度を合わせなければならない。
仮のタガに合わせて板を組み、足で回しながら外側と内側にカンナをかけてタガを締め、内側の下に溝を彫って底板をはめる。縁にカンナがけをして仕上げる。これに蓋(ふた)がつく。関西は取っ手がついたのせ蓋で、関東では縁がついてかぶさる。
おひつのご飯は、粒がしっとりして、かむと柔らかくて甘い。サワラが呼吸して程よく水分を吸収している。炊いたご飯をおひつに移しておくと、味が変わらずおいしさを保つ。
おひつは手入れさえしていれば何代も使える。おいしいご飯をいただく幸せに勝るものはない。
 |
| 木材の町、上松宿 |
|
◆お取り寄せ
江戸おひつ3合(直径18センチ)は8400円、5合(21センチ)8900円。30センチまで3センチ刻みで作製。税・送料別。
問い合わせは木曽木材工業協同組合(TEL0264・52・5504、FAX52・5501、kiso-m-k@minos.ocn.ne.jp)。
|
|
|