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使い込み、深まる味わい    くらしの良品探訪タイトル
イラスト
【イラストより】「燻(ふす)べ」鹿革をタイコ(筒)に張り、ワラの煙で燻(いぶ)す。
第51回
印伝の合切袋
合切袋
甲府市川田町


地図
 甲府の街を懐にすっぽりと抱え込む甲斐の山々は、雨に煙っていた。晴れていれば、欠けたすり鉢の縁のような稜線(りょうせん)から富士山がのぞいているはずだが、いまは雲間に隠れている。

 残暑に打ち水をしたような心地よい雨にぬれながら川田町の工業団地「アリア」まで足をのばす。自然を生かしたエリアに、地元企業12社の、個性豊かな現代建築が融合している。各社のショールームも充実している。甲州印伝の老舗(しにせ)「印傳(いんでん)屋」の本社屋、工場もこの一画にある。

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 印伝というのは、鹿皮を独特の方法でなめして染め加工したもので、その不思議な名は昔、幕府に献上された装飾革がインド産で「応帝亜(インデア)革」と呼ばれたからとも、また「印度伝来」からきているという説がある。

 鹿革はしなやかで体になじみ、強度も備えている。戦国時代には鎧(よろい)や兜(かぶと)に使われ、日本の繊細な技術によって印伝に昇華した。とくに、四方を山に囲まれた甲州は、古くから鹿皮や漆を産出していたことから、甲州印伝の名を高めた。

 江戸時代以前から13代続く「印傳屋」は、漆付けや「燻(ふす)べ」と呼ばれる染めの技法を代々、家長の口伝のみで引き継いできた。「燻べ」というのは、煙で燻(いぶ)して革を染めるもので、一番古い技法。

 「燻す煙から排出するタンニンが皮をなめす効果があって、昔は捕った毛皮を天井裏に放っておくと柔らかくなり、自然に着色もできた」

 工場で神宮寺秀哉さん(32)がにっこり笑う。鹿革の繊維が煙を通しやすく、ほかの革では燻べはできない。

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 作業場は煙が充満していた。カマドにワラがくべられ、その上に直径1メートルほどのタイコ(筒)が据えられ、胴の表に粗裁ちした鹿革を張りつけてある。煙の具合を見ながら、タイコをゆっくりと回す。1回に燻すのは30分から40分。それを10回ほど繰り返すと、いいつやと色が出る。革に糸を巻いたり、図柄をほどこしたりすると、型抜きの模様が浮かび上がる。漆で模様を描く方法もある。

 たくさんある印伝の商品の中で、合切袋が目にとまった。お金や印鑑など、貴重品や小物を一切合切入れて持ち歩いた。さりげなく手に提げていると、粋が引き立つ。

 「鹿革は人間の皮膚に一番近い。4、5年使い込むとしっとりしてきます」

 使い込んだ印伝には、長い人生を夫婦で手をつないで生きてきた、しみじみとした人肌の味わいがある。


アリア
個性的な建物が並ぶ「アリア」

◆お取り寄せ
 印伝の合切袋・小(26.5×19センチ)は1万2600円、大(29.5×23×4センチ、底マチ付き)は1万8900円。送料別。問い合わせは印傳屋(TEL055・233・1100、FAX232・8428、http://www.inden-ya.co.jp)。9月12日(日)〜11月28日(日)、甲府市中央3丁目の印傳屋本店2階、印傳博物館で開館5周年記念展。

(2004年9月1日朝日新聞東京本社夕刊のマリオン紙面から)

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