「白い紙は『神』に通ずる」。これは、紙漉(す)き職人たちの精神が集約された言葉だ。「白い紙は不浄なものを浄化する」という考えは、昔からの慣習として受け継がれている。白い和紙で作られた祝儀袋にお金を入れたり、お中元やお歳暮の品物に和紙の熨斗(のし)をつけるのは、人に差し上げるお金や品物を浄化する行為であり、日本人の持つ美学のひとつだ。
和紙の仕事を始めたのは、単に好きだからという理由ではない。福井県越前市にある明治時代から続く製紙所。冬には冷蔵庫の中にいるような作業場で真水に素手を入れて作業する職人たちからは湯気が立ち上っていた。その光景が持つ精神性や営みの尊さに衝撃を受けた私はこれを次世代につながなければと強く思ったのだった。
24歳のとき、和紙のブランドを立ち上げた。手漉き和紙の業界を活性化するためには、安価な機械漉き和紙に対して価値の差別化をしなくてはならない。使えば使うほど質感が増し、強度も衰えない特性を生かして、建築やインテリアの世界で展開しようと考えた。
もともと銀行員だった私は、職人のもとで修業した訳でも、専門の勉強をした訳でもない。それでもデザインやアートの世界に飛び込もうと思ったきっかけは、博物館で土偶や埴輪(はにわ)を見たことだった。時代を超えて、なお斬新でダイナミックな造形を作った古代人は、大学でアートやデザインを学んだ訳ではない。生きるために狩りをし、畑を耕し、子供を育てていた一生活者であったのではないか。そして、その背景には、命に対する祈りや自然に対する畏敬(いけい)の念があったに違いない。
どんな時代も、モノの背景にある人の思いが文化をつくり、その土地独自の美学を育てていく。古代の遺物に背中を押され、私の和紙人生はスタートした。