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2007.5.2(水)更新  彩・美・風/奇跡は今でも起こっている
彩・美・風
奇跡は今でも起こっている

南條史生さん
 長年、現代美術とかかわってきた。長く続いたのは、同じ時代に生きているアーティストが、身近な問題を取り上げて出来た作品こそが一番面白く、分かりやすいはずだと思ってきたからである。そこで、美術の現況を伝える作品を数回にわたり、紹介したいと思う。

 最初に紹介したいのは、オランダのアーティスト、イップ・ルービンの「奇跡の木」だ。これは昨年開催されたシンガポール・ビエンナーレで、アジア文明博物館の近傍の広場に設置したものだ。設置したと言ってもそこで作ったものではない。もともとあった高さ10メートルの木の幹から枝にかけて、16本のパイプを走らせ、その外側にきわめて精巧な人工の表皮をかぶせ、全くパイプが見えないように作ったものである。そして、コンピューターで操作してこの木の下だけ、一日に1、2回、突然、ドシャ降りの雨が降るのである。

 近くにいる人は、もちろん驚く。また、うわさを聞いてやってきた人は、ひたすら待っている。待っていても、なかなかその場面には遭遇できない。が、それは仕方ない、奇跡にはなかなか出合えないものだからだ。うまく雨降りに行きあったときには、みんな上半身裸になって奇跡を享受した。子供達は走り回って、大はしゃぎである。作家は、設置した後、オランダに帰ったが、その後もコンピューターで遠隔操作し、雨の降るタイミングをコントロールした。

 最近では、こうした様々な仕掛けを持った作品が増えている。そうした作品をインスタレーションと呼ぶときもある。また、このイップの作品は公共の広場にあるという事で、パブリックアートに分類する事も可能だろう。いずれにしろ、こんな奇跡に出合ったら、きっと一生忘れないだろう。翻って見れば、アートも奇跡と似ているのではないだろうか。その価値、その意味は、見る人の信念の上に築かれている。

 なんじょう・ふみお 
 49年、東京生まれ。森美術館館長。国際交流基金などを経て02年から同美術館に。多くの国際的な美術展企画に携わる。
南條史生さん

(2007年5月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)


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