長年、現代美術とかかわってきた。長く続いたのは、同じ時代に生きているアーティストが、身近な問題を取り上げて出来た作品こそが一番面白く、分かりやすいはずだと思ってきたからである。そこで、美術の現況を伝える作品を数回にわたり、紹介したいと思う。
最初に紹介したいのは、オランダのアーティスト、イップ・ルービンの「奇跡の木」だ。これは昨年開催されたシンガポール・ビエンナーレで、アジア文明博物館の近傍の広場に設置したものだ。設置したと言ってもそこで作ったものではない。もともとあった高さ10メートルの木の幹から枝にかけて、16本のパイプを走らせ、その外側にきわめて精巧な人工の表皮をかぶせ、全くパイプが見えないように作ったものである。そして、コンピューターで操作してこの木の下だけ、一日に1、2回、突然、ドシャ降りの雨が降るのである。
近くにいる人は、もちろん驚く。また、うわさを聞いてやってきた人は、ひたすら待っている。待っていても、なかなかその場面には遭遇できない。が、それは仕方ない、奇跡にはなかなか出合えないものだからだ。うまく雨降りに行きあったときには、みんな上半身裸になって奇跡を享受した。子供達は走り回って、大はしゃぎである。作家は、設置した後、オランダに帰ったが、その後もコンピューターで遠隔操作し、雨の降るタイミングをコントロールした。
最近では、こうした様々な仕掛けを持った作品が増えている。そうした作品をインスタレーションと呼ぶときもある。また、このイップの作品は公共の広場にあるという事で、パブリックアートに分類する事も可能だろう。いずれにしろ、こんな奇跡に出合ったら、きっと一生忘れないだろう。翻って見れば、アートも奇跡と似ているのではないだろうか。その価値、その意味は、見る人の信念の上に築かれている。