
シュー・ビン(徐冰)は中国の作家である。中国といえば五千年の歴史を持ち、漢字を発明した国である。日本も韓国も、いまだにその漢字を文字に使っている。シュー・ビンはその漢字をテーマにして、驚くべきシステムを開発した。
彼は、アルファベットを部首に見立てて、英語の単語を漢字のように書きつづるシステムを考えたのである。だからその文章は、一見すると古い漢字で書かれているように見えるが、実は、全部英語として読めるのである。彼は現在ニューヨークに在住だが、冗談のように「アメリカ人でも読める漢字を作ってあげた」と語っていた。いかにも中国人らしいコメントである。
彼はこれを使って様々な作品を発表した。台北やシドニーのビエンナーレでは、展示室内に教室を作り、机の上には筆と硯(すずり)とお習字の練習帳が載っている=写真はClassroom Calligraphy ©XU Bing。よく見ると、それは彼の考案した文字のお稽古(けいこ)帳なのである。展覧会の中なのに、観客は喜んで、その変わった文字を練習した。
06年のシンガポール・ビエンナーレでは、仏教寺院の大広間に巨大な絨毯(じゅうたん)を制作した。絨毯には、彼の作った文字で、展覧会のテーマ「belief(信念)」と書かれている。最初はみんな、これは古い漢字に違いない、と読むのをあきらめそうになるが、英語だとわかると一生懸命読み始める。それはパズルに夢中になるのに似ている。
現代美術は、絵画と彫刻だけではない。こうしたシステムそのものも作品になりうるのだ。考えてみれば、全く新しいシステムを提案することは、科学・技術の発明と同じように、我々の生きている環境と現実についての新しい「ものの見方」につながっている。それが現代美術の一つの、しかし重要なおもしろさとなっているだろう。