「芸術」という言葉を耳にすると、気軽に美術館に足を運び、美術を楽しむ、というよりも、どこか敷居が高い印象を抱いてしまいます。私のイメージだけで言うと、「芸術」は普段の生活からかけ離れた世界。自分の言葉では、その作品がもつ世界観を伝えることが出来ない時、「なんか芸術的だね」と、無責任に口走ってしまうこともあります。
初めてピカソの抽象画を見た時もそうでした。キャンバスに描かれた、一枚の女性像。まるで、福笑いのお福さんの失敗作のように、顔に描かれた目や鼻が散らばっています。これが、子どもではなく、大人が描く世界なの? 当時、まだ子どもだった私が家や学校で同じような女性の顔を描いていたら、間違いなく、「変な絵」の一言で片付けられていたでしょう。
これが、芸術?
とても心がゆさぶられるのにうまく説明できない瞬間を「芸術的」という三文字で済ませてしまうことは今でもあります。それは、私たちが見た時、聞いた時の感覚に、言葉を超えて直接響いてくる力なのかもしれません。
しかし、アートをもっと身近に感じるためには、美しさ、切なさ、苦しさ、作品から伝わってくる感情と向き合うことも必要です。以前、都内の美術館にルネ・マグリットの「光の帝国U」を見に行きました。その日、誰とも口を聞けないくらい落ち込んでいた私を静かに慰めてくれたのが、マグリットでした。昼と夜が共存する、不思議な街の灯火を眺めているだけで、心が落ち着く。自分の気持ちを唯一、理解してくれたのは一枚の絵、アートだったのです。
「芸術」という堅い言葉にとらわれず、自分が等身大のまま感じられる力だけを信じて、おもいっきり吸収し、楽しむ。時には、少しだけ背伸びして、今まで触れたことのない芸術の世界をのぞいてみる。
芸術やアーティストとの出会いによって、自分自身が刺激され、少しずつ成長していくのかもしれませんね。五感に響く、アートの世界。いくつになっても、このときめきを感じられる人でありたいです。