子どもを持って初めて気づいたことは果てしなく多い。独身時代には感じなかった世の中の壁にぶちあたり、両親の苦労に初めて思い至る。まさに「子育ては自分育て」だ。そして、それまで抽象的にしかとらえていなかった「未来」というビジョンを、「この子たちの未来」として具体的に考えるようになった。
親になることで、そのように人生観が変わるとすれば、それがアーティストなら、おのずと作品に反映されてくることもあるだろう。
現代美術家のヤノベケンジさんは、1965年に大阪で生まれ、70年の大阪万博の跡地を遊び場として育った。輝かしい未来を象徴するパビリオンが取り壊された「未来の廃虚」を原風景に、サバイバルをテーマとした作品をつくる。97年、作品として制作した放射能防護服「アトムスーツ」を着てチェルノブイリに赴いた体験は、彼を、より強くサバイバルの方向へと突き動かしてゆくかに見えた。
しかし、その後、父親となったヤノベさんはテーマを「リバイバル(再生)」に転換する。核時代の恐怖を伝えるオヤジ子どもキャラクター「トらやん」、自分の父親(祖父)が子ども(孫)に語りかける「森の映画館」。05年には金沢21世紀美術館で滞在制作した「子供都市計画」を発表した。子どもたちのための、未来都市のビジョンである。
こうした作品には、核の時代を生きるすべての子どもたちに、未来を残したいという切なるメッセージが込められている。受け継ぎ、残すこと。我が子の存在が、作品世界をはっきりと普遍的なビジョンへと発展させたのではないだろうか。
個人の人生を、その存在すべてを賭けて作品をつくり出すアーティスト。彼らから、創作と子育ての関係について聞くことは、私にとって新たな美術観の発見でもある。そして、アーティストの視点に立って美術と向き合うことで、日々新しい体験にキラキラと輝く子どもの視点を取り戻すことができる。そんな発見のたび、これも子どものおかげだと感謝している私である。
◇8月は歌手で俳優の美輪明宏さんの執筆です。