懸賞サイトは朝日マリオン・コム-懸賞 プレゼント、懸賞 応募、懸賞 旅行
2007.10.24(水)更新  彩・美・風/抑えた表現、栗の絵に学ぶ
彩・美・風
抑えた表現、栗の絵に学ぶ

中谷美紀さん
 人並みに敬愛してやまない画家はいるけれど、真贋(しんがん)を問わず絵画を自室に掲示することは望まない。作者の主張や魂の叫びを受け止める強さと柔軟性に欠けるからだろう。

 しかし、とある場所で見て以来、どうしても我が身に引き寄せたいとの欲望を掻(か)き立てる絵がある。それは、中井亮氏という模様悉皆(しっかい)屋さんによって生み出された京友禅の栗の絵だった。

 模様悉皆とは、着物をデザインし、下絵を描き、色挿しや地色の染め出し、金彩銀彩の案配や刺繍(ししゅう)の施し具合などすべてを司(つかさど)り、職人を統括するという、オーケストラにおける指揮者のような存在らしい。

 遠目には白かと見まがうような淡い地色に、軟らかく消え入りそうな線で枝を表現し、はらはらと落ちていく寸前の葉、そして金彩がわずかに挿された毬(いが)の割れ目から覗(のぞ)き見える栗を描いた付け下げは、絢爛(けんらん)豪華な着物とは異なり、静けさをたたえていた。

 個性豊かで、時に人格者とは程遠い職人たちの得意とするところを見いだし、言葉では表現しきれない感性の領域を分かち合いながら、質の向上に尽力する中井氏は、広げた瞬間に称賛を集め、人を熱狂させる観賞用の作品作りとは一線を画し、身に着けるための着物を作り続ける。

 下絵だけでも3人の職人を要し、金彩銀彩で覆い隠せばごまかせる輪郭を丁寧に描くからこそ、光りを抑えた控えめな表現が可能なことなど、大変な工程についての説明をあえて慎むことも。それゆえ微妙な色合いと繊細な線を「地味」のひとことで片付けられてしまうことも少なくない。「口で申し上げなくても感じてくださる方に着ていただけたら」という口調はあくまでも柔らかく、しかし、本質で勝負する者の矜持(きょうじ)をもった瞳に迷いは感じられなかった。

 大げさなパフォーマンスの時代に、内面へそっと語りかけてくるような静かで奥行きのある作品が表現の可能性を新たに指し示してくれたようで、焦ったり無理をしたりするよりはじっくり機が熟すのを待ってみようかと思う晩秋であった。

 なかたに・みき 
 東京生まれ。女優。「嫌われ松子の一生」など多数の話題作に出演。主演映画「自虐の詩」が10月27日から公開。
中谷美紀さん

(2007年10月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)


asahi-mullion.comトップページへ
サイトマップ | 会社案内 | 朝日マリオン・コムとは | 姉妹メディア | 会員規約 | 個人情報・著作権
asahi-mullion.comに掲載の記事や情報、写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright 2007 Asahi Mullion 21. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

懸賞サイトは朝日マリオン・コム-懸賞 プレゼント、懸賞 応募、懸賞 旅行